飛行魔法
はー、びっくりした。
少し意識が飛んでしまったかもしれない。
ヤバげな感じがして即座におならを止めたから、後半はほぼ普通の竜巻だったけど、それでも周囲に結構な被害が出てしまった。
熱い空気は軽くなって上昇し、風を呼ぶ。新たな風が炎にさらなる酸素を供給し、爆発的な燃焼が竜巻まで発生させたのか。自然の摂理に従ったから、ただのおならファイアーがえらいことになったんだな。あと、ガス大爆発ってバスガス爆発に似ていると思った。
そうだな、この技を神風召喚と名付けよう。
なんか大木が根っこごと引き抜かれて倒れている。誰だこんなひどいことする奴は……大事な木だったら怒られるかもしれない。
オーリィさんも近くにいた助手達も、気を失って倒れている。軽い酸欠だろうなあ。火が燃えると酸素を消費するから。
ああ、ガスを止めなければ、不完全燃焼で一酸化炭素中毒になっていたかもしれない? うーん? 屋外なら大丈夫なのかな?
おならが意外に危険物だった件。自分でも注意しないとな。おならで爆死とか僕は嫌だよ。
どう考えても怒られる案件なので、こっそり逃げ出そうとしたら、オーリィさんが起きてしまった。
「久しぶりに魔力酔いで気を失ってしまったかしら」
いえ、ただの酸欠です。魔力酔いが何かは知らないけど、酸欠の方が危険な気がする。脳がやられるからね。
「素晴らしいわ! 二属性の複合魔法!! 大規模魔法に匹敵する威力を、こんな小さい子がたった一人で!」
いや、小さい子って……僕高二だよ。もう成長も止まりつつあるんだけど。
まだ身長が伸びる希望は捨ててないけど、最近は座高しか伸びていない。足の成長が止まった? むしろ足だけ伸びて欲しいんだけれど。
「アハハ! 王級の魔法結界がまるで効果なかったわ。誰もあなたの魔法を止められない。素敵よ! 素敵過ぎます。やはり私の目に狂いはなかったのね」
あ、カラス避けの飾りかと思ってたやつ、あれって魔法の結界だったみたいだ。
そりゃあね、おならを燃やしただけだからね。そもそも魔法じゃないから、その手のアイテムじゃ効果ないんだろうね。おならコントロールの部分になら干渉するのかもしれないけれど。
とりあえず怒られないで良かった。
でも、なし崩し的にオーリィさんの弟子みたいなことになってしまった。魔法使いの弟子とか、ちょっとロマンあるかもだから、べつにいいけど。食事の心配も寝る場所の心配もいらないのは、やっぱり助かるしね。
魔王を倒してこいとか、頭おかしいことも言われないし。普通に考えてクラスメート達より勝ち組でしょう。
どうやら一人前の魔法使いになれば、この世界では将軍クラスのポジションみたいだ。野望系のゲームでいうところの武将ユニットに相当するのかな? 募集をかけたら雇えたり、一騎打ちで倒せば仲間になったりするアレかあ。
モヒカン達より上の立場なので、髪型は自由らしい。良かったあ。
で、まずは基本として防御系の魔法から教えてもらった。風の鎧といって自分の周囲を風で包む奴だ。
エアバッグみたいなものかな? 僕の場合はおならに包まれるわけなので、普通に窒息してしまう。
窒素が八割、酸素が二割。空気の組成は大体そんなものだった筈。おならエディットで調整して、呼吸可能なおならを作ってみた。
普通に息はできる。あとは気分の問題だ。最近おならチャージの枠が増えたので、呼吸用のおならは別枠にチャージしておく。良く使う純粋メタンや毒ガス用の臭いのも、別枠で溜めておこう。腹に七種のおならを持つ男。それがこの僕、おならマスターだ。
教えてもらってわかったけれど、確かに風魔法はおならコントロールと共通点が多いよね。風魔法は自然の風を魔力で操るが、僕は自前のおならを使う必要がある。どちらも一長一短あるねえ。
「風の鎧は全ての基本です。飛行魔法を学ぶには、まず風の鎧を完全に使いこなさなければなりません」
オーリィさんは完全に先生口調だな。え? 飛行魔法ってやっぱりあるんだね。
「先生は飛べるんですか?」
先生と呼ばれると凄く嬉しそうだ。本物の先生はそんな顔しないな。うちの担任は生徒が声をかけるといつも面倒くさそうな顔をする。あいつは自分の給料にしか興味ないんだ。あんなのが賢者なんて世も末だよ。
「仕方ありませんね。それでは飛行魔法をお見せしましょう。でも、先生がいいと言うまでは、勝手に飛ぼうとしては駄目ですよ」
むにゃむにゃと数分呪文を唱えた後、ふわりと宙に浮いた。三十センチほど。そしてすぐにストンと着地してしまう。
「え? それだけ?」
「飛行魔法には夥しい魔力を使うのです。十数える間飛んでいられたら、一級風魔法使い合格なんですからね!」
国家資格があるんだ。そういえば、この辺りって僕達を召喚したあの国の領土なんだろうか?
なんかちょっと文化が違う気がするんだよね。
とりあえず飛行魔法に関しては、最初から師匠を超えているな。十秒程度なら余裕でホバリングできる。それでも他に教えて欲しいことは沢山ある。魔法より地理とか歴史が知りたいな。
それに、ちゃんと手入れされた建物で寝るのはいいものだ。食事だって丸イモよりはマシだし、しばらくお世話になってもいいかもしれない。
オーリィさんのことを暇人だと思っていたけれど、実はかなり忙しいみたいだ。
だから僕の修業は自習が中心。灯台にいた時とそう変わらない。
最大MPを増やすためには、長時間魔法を使い続けるといいっぽいので、常時おなら魔法を使いこむ。
まずはおなら変換でMPをおならに変える。さらにおならエディットで純粋なメタンガスに調整。そしておならチャージで貯蔵。おならコントロールで仮想のガス管を通して、最後はおならファイアー。
一連の作業をじっくりゆっくりやっていくと、MPの自然回復量が消費を上回ってしまう。
つまり起きている間は、魔法を使い続けることも可能。おなら魔法は低燃費だからね。
寝ている間にも使える魔法があればいいのだけれど、誤操作が怖い。肛門強化とかなら問題ないかな?
悪い夢を見そうだからやめておこう。
メタンガスはただ燃やすだけだと、ゆらゆら蝋燭の炎のようになる。理科の実験で使うガスバーナーのようにトーチ状に燃やすには……空気をもっと混合してやればいいのか。ガスバーナーを分解した時のことを思い出してみる。とてもシンプルな構造をしていたよな。
おならコントロールでいろいろ工夫しているうちに、シュゴゴゴと勢いよく燃えるガスバーナーが見事にできた。SFに出て来る光の剣みたいでカッコイイ。
凄い勢いで熱風が噴き出すのでドライヤーとしても使えそうだ。髪を乾かすには怖いけど、干物づくりならいけるか? 蒲焼になってしまうかもだけど。
カッコいいので全ての指先から発射してみる。おならクローと名付けよう。ワキワキして遊んでいると噴射のパワーが結構あるな。庭の落ち葉なんかを吹き飛ばして掃除するのに便利だ。ただおならを噴出させるより、燃焼させた方が推進力は上がるっぽい。
これってジェットエンジン? あ、おならエディットで酸素も用意すれば宇宙も飛べるかも。おならロケットだ。夢が膨らむなあ。
肛門をメインエンジンにして、両足の裏に補助エンジン、両手に姿勢制御エンジンを配置すれば……ビジュアル的にも結構イケてないか?
僕はスタイリッシュなおならマスターを目指すんだ。