春のオーブ祭り
毎日毎日忙しい。日の出前に起きて漁に出る。
吉田も加わって九人になった。みんな良く食べる。
それでも食べきれないほど新鮮な魚がゲットできるので、余剰分の干物はたまに売りに行っている。別にお金に困ってはいないのだけれど、固定ファンがついたからね。転売されるくらい人気が出てきたのもよし悪しだよ。
梅木さんと赤松の料理の腕がメキメキ上がってきたので、皆で朝食を食べるのが楽しみになってきた。花村と羽山もたいしたもんだ。竹井ですら吉田に駄目だしされるのが悔しいらしく、普通に美味しいものを作れるようになってきた。
吉田は食べるの専門だけれど、舌が神だ。梅木さんですら吉田の舌には一目置いている。基本食っちゃ寝しているだけだけれど、余計なことはしないので手がかからない。
グラさんなき今、人探しの魔法は厄介なので、敵対されるくらいならゴロゴロしてくれている方が有難い。
朝食を食ったら、食材の買い出しだ。新鮮な卵に牛乳、チーズにバターにヨーグルトなど。プリン騒ぎで皆の舌が肥えてしまったからね。一度上がった生活レベルは下げられないものなんだ。
トロアニルの湖から少し川を遡った盆地に、酪農が盛んな村がある。バザールでスルメを気に入ってくれたおっさんの縁で、最近は直接村まで商売しに行ってる。
村の名前はアイナ村。温泉宿を経営しているアイナ婆さんが村長というかボスだ。
計算高い婆さんみたいだけれど、扱う乳製品の質はピカイチなので言い値で取り引きしている。お金は有り余ってるから。
まあ、そこまでボッタくったり買い叩いたりしてくる訳じゃない。婆さんなりの矜持があるみたいだ。
島で鶏やヤギを飼ってみたいとセーラちゃんと話していたこともあったんだけど、アイナ村を見つけたので全て白紙に戻ってしまった。だって、家畜の世話は大変なんだ。島にヤギを放したら環境破壊になったって話も聞いたことあるしね。
何よりアイナ村の高品質な乳製品は日本のデパートでも買えないレベルなんだ。同じレベルのものを作るのに何年、いや何十年かかる? 喜んで干物と交換してくれるんだから、酪農する必要ないと思った。
まあ、ぶっちゃけ牛の世話が大変なの見ちゃったし。家畜相手だと休みなしだし、ちょっと無理。
漁は別に休んでも、海のお魚は死んだりしないのがいいね。
「はい、今日の分の干物」
アイナ婆さんは一夜干しの味に目覚めてしまったので、新鮮な干物を高レートで購入してくれる。
美味しいよね、一夜干し。定番のアジは最高だし、トビウオもハマる味わいだ。
グルメな吉田に付き合わされて梅木さんの技にもますます磨きがかかり、究極の干物と言っていいレベルになっている。
「あい、今日の乳と卵」
意外なことにこの世界では生乳は流通していなかった。なので鍛冶屋に特注してミルク缶を作らせるところから始めたんだ。鉄製の缶に溶かした錫をコーティングして、フランダース地方で犬が引っ張ってそうなリヤカーとセットでアイナ村に貸し出している。
牛乳があると料理の幅が広がるのがいい。余った牛乳は女子ーズが生クリームやバターに加工しているみたいだ。赤松の結界魔法は遠心分離とか簡単にやっちゃうし、あいつは多分勇者より強い。
プリンやアイスに加工してしまえば、結局いくらあっても足りないしなあ。砂糖の消費が凄いよ。産地で買い付ければ安いけれど。ついでに砂糖貿易で儲かるけど。
「あ、ミーさん。砂糖あるかい? 今日は春のオーブ祭りなんで贅沢するんだ」
「へえ、お祭りですか。そういえば広場でカカシみたいの作ってましたね」
「ミーさんも出ないかい? あんた魔法使えるから、騎士役ね」
へえ、なんか面白そうだ。祭りは午後からだそうなので、一度島に戻って昼食を食べる。
「オーブ祭りですか? 山の方は土着のお祭りとかまだ残ってますからね。私がお留守番してますから楽しんで来てください」
セーラちゃんを誘ってみたけれど、断られてしまった。あれ以来セーラちゃんはグラさんの塚に悪戯されないように留守番してくれている。本当にいい子だ。
アイナ村に戻ると、アニメのロボみたいになったカカシが山車に乗せられていた。化石になった竜の骨を、荒縄で縛って組み立ててある。
グラさんが復活させかかった化石のことを思い出した。あれは凄かったけど、こいつはなあ……もう少しなんとかならなかったものだろうか。
僕は騎士役なので、紙の鎧を着て腹部のコクピットっぽい座席に座っていればいいらしい。
アイナ婆さんがお姫様役らしく、なんかコスプレをして山車にちょこんと座ってる。
「あの、自前の鎧があるので、こっち着ちゃ駄目ですかね?」
最近忘れていたホバー鎧だ。竜の鱗を張り付けてあるので、見た目はそれっぽいぞ。
「おお勇者よ! とても素晴らしいですぞ」
「あはは、勇者ってのは勘弁して欲しいなあ」
他の村々からも次々に山車が集まって来る。思い思いにロボっぽいカカシが乗せられていて面白い。
アイナ村のカカシが一番出来が悪いね。せめて縄で縛ってる部分は隠そうよ。
ただ、頭部に飾られているオーブだけは立派なものだ。魔力を感じる。
大型動物の頭蓋骨を加工したヘッドパーツに、不相応な大きさの黄色い玉がはめ込まれている。
春のオーブ祭りってことは、夏とか秋にも祭りがあるんだろうか?
結局全ての山車がアイナ婆さんの温泉宿に集まって宴会が始まる。
祭りってもっと何か儀式的なイベントかと思っていたけど、飲んで食ってしたいだけみたいだ。
「おやおや、アイナ村の竜は翼が二枚しかないのかい?」
手持ちぶさたに座っていると、隣のハリボテに座っている男装の騎士みたいな人に声をかけられる。
翼の数?
「え? ああ、そっちは四枚羽根みたいですね」
「六枚だよキミィ! よく見たまえ、竜は翼の数で格が決まるのだよ。我がイフリート村のイフリートは今でもちゃんと動くのだ!」
本当だ。ぐぐっと腕が動いた。凝ってるなあ。
どうやらオーブの少し前方に魔力の塊を浮かべたみたいだ。馬の目の前にニンジンをぶら下げる的な?
真似してやってみる。こっちは関節すらないカカシだから腕は動かないけど、頭くらいは可動するかも。
お、結構魔力を持ってかれるなあ。最近は増え過ぎてMPの存在を忘れていたけれど、井の中の蛙だったかもしれない。無限のMPとか調子乗ってました。
ギシギシミチミチときしむ音。壊れたりしないだろうな? まだ祭りは終わっていないと思う。壊したらアイナ婆さんに怒られる。
婆さんは他の村の客に酒を注いで回っている。いい気なもんだ。
なんか僕も凄くお腹がすいてきた。
鼻先に浮かぶ魔力の塊を追いかけて立ち上がる。足元がふらつくけれど、もう止まれない。ヨタヨタと不自由な体を引きずって歩き続ける。
あれ? 一瞬意識が飛んだ? というか、巨人の視点になってたぞ。
「うわっ! キモっ」
カカシに使われていた竜の骨に血管が浮き出している。まさか、こいつ、オーブをコアにして強引に再生する気か? いろいろ無理があるよ。
『ハラヘッタ!!』
強いイメージが流れ込んで来る。ヤバいなこれ。餌をやらないと僕が食べられそうだ。おならバリアーで防御しようにも、鎧ごとカカシと一体化してる。ひえー、逃げられない。
餌はないか? こいつが喜ぶ餌?
赤い光点をチカチカとロックオン。広場に積んであった竜の化石だ。
『エサ!!!』
まっしぐらに突き進むバケモノを、ポカンと見ている村人達。キミたち危機感無いね。ひょっとして良くあることなの?




