ヘッドハント
「吉田のヘッドハントは私にやらせて」
プリンのこと以外には消極的だった赤松が、珍しくやる気だ。
「いや、別に殺す訳じゃないから」
「ミー君が面白いこと言ってるわよ。ヘッドハントっていうのは、ええと、説明が難しいけど違うから。殺さないから」
赤松は偉そうに言う割にはよく知らないみたいだ。
「ほらあれよ、野球のドラフトみたいな?」
羽山の説明でなんとなくニュアンスは掴んだ。経済系のドラマなんかで見たことあるかもしれない。給料倍出そうとかいうあれだ。
「ただの引き抜きでしょ。なんでもかんでもカタカナ使ってんじゃないわよ」
花村が何故か怒ってる。
「花ちゃんはカタカナ言葉に両親を殺されたからね」
竹井が竹井の癖に頭良さそうなことを言う。
「ああ、引き抜きならヘッドハントじゃなくてヘッドハンティングじゃないか?」
現在進行形?
「ウガー!!」
花村が暴れ出す。あはは、みんな馬鹿だ。
女子達と一緒に過ごしてみて、男子並みに馬鹿だということが分かった。馬鹿さのベクトルがちょっと違うけど。
冗談はさておき、僕は死んだことにしておく方がいろいろ都合がいいのも確かだ。赤松は何故かレベルが結構高いし、結界を使えば鉄壁の防御だから安心だ。
だけどその前に吉田の居場所を確認しなければならない。
セーラちゃんが器用に草を編んで虫かごを作ってくれた。それに何匹かトンボを入れて、羽山が大事そうに抱える。
その羽山をお姫様抱っこして、夜明け前に賢王の城に飛ぶ。
空が白む前に上空からトンボ達を降下させ、吉田の居場所を探るのだ。最大の敵はツバメみたいな小鳥達で、見つけられたら高確率で捕食されてしまう。
ハエとかを筒に入れて投下する方が良さそうなんだけど、羽山は断固として拒否した。
虫を操るのはドローンの操縦みたいな感じらしい。偵察目的ならある意味ドローンより優秀だよ。そもそもドローンって雄バチのことらしいね。
羽山を抱えたまま高高度をホバリングする。衛星軌道に乗る方が楽なんだけど、虫との距離が離れすぎるとコントロールできないみたいだ。
どこか城の近くに秘密のアジトを作ってもいいかもね。お姫様抱っこだと一度に一人しか運べないのが問題だ。おんぶにだっこだと二人運べそうだから、抱っこヒモみたいな道具を開発しようかな。
「見つけた! 吉田さん部屋でゴロゴロしてる。軟禁状態かなあ? なんか凄く太ってる!」
「警備状態はどう? 忍び込めそう?」
「警備はザルね。空を飛べれば簡単じゃない?」
それだけ分かれば十分だろう。島に戻って僕は寝よう。決行は今夜だ。
夕食のデザートはとびきりのプリンだった。女子達は吉田ではなくプリンが目的で協力してくれているのかもしれない。
バスケットにプリンの容器を丁寧に入れ、バスケットごと僕のインベントリに収納する。
セーラちゃんが背負いヒモの試作品を渡してくれた。あと、変装用の仮面も。セーラちゃんって貴族のお姫様だったのに、手芸スキルがやたら高い。お針子さんになっても生きていけると自慢するだけのことはある。
星が輝きだすのを待って、赤松を抱きかかえて発進する。
「お姫さま抱っこいいね。ミー君は逞しくなった」
「このくらい、前から余裕だよ」
まあ、嘘だけど。一瞬抱えるくらいはできたかもしれないけど、歩いたりは絶対無理だ。飛ぶなんてもってのほかだ。
だいたい、日本じゃ人間はおならで空を飛ばないし。
「そういえばミー君って、なんで空飛べるの? まさかおならで? そんなわけないかー」
「冗談言ってる暇はないぞ。ほらもう城が見えて来た」
咄嗟に誤魔化してしまう。別に秘密にするほどのことでもないけど、馬鹿正直に手の内を晒す必要もないわけで……




