植物は知っていた
「賢王ざまあ」
島に戻って皆に報告したら、第一声がそれだった。
最近、竹井のことが少し理解できてきたよ。全方位に噛みついて喧嘩を売って回る怖い奴だと思っていたが、どうやらただの馬鹿だったようだ。思ったことをそのまま口にしちゃうんだよこいつ。他人への配慮とかまるでないし。言いたいこと言えて気持ちいいだろうけど、そりゃあ皆に嫌われるよ。
元バスガイドの梅木さんが上手く調教して、最近は多少我慢できるようになった。高校生にもなって遅いよ。小学校の先生が悪いのか? それ以前にご家庭で何してた?
まあ、凄く嫌な奴だけど、根は悪くない? いや、根も結構悪い奴だなあ。梅木さんが凄いだけか。
とりあえず賢王は皆の共通の敵だから、竹井がどんなに悪態をついても誰も気にしない。むしろ、いいぞもっと言ってやれって感じだ。竹井の平和利用だ。どんなものでも使い方次第で人の役に立つんだな。
「それじゃあ、私達もう狙われずに済むの?」
「安全になったなら異世界観光とかしてみたいわよね」
そうか、みんなまだ世界の厳しさを知らないんだな。監視役の兵士達は、護衛でありお世話係でもあったんだ。
追手がいなくなったところで、そこまで難易度が変ったわけでもない。
油断していれば命が危ないし、中途半端にレベルが高いから相手も危ない。
過剰防衛で軽犯罪者を殺したりしちゃうと、精神的に結構きついよ。それでも自分の手を汚す生き方を、遅かれ早かれ学ぶ必要はあるんだよなあ。
まあ、キャーキャー怖がっていた女子達も、魚を平気でさばけるようになった。慣れだよ慣れ。
僕だって鳥や哺乳類はまだ結構キツイ。亀も可哀そうだし、スッポンも……いや、スッポンは食べ物だな。
とにかく、面倒でも徐々に慣らしていかないと、トラブルに巻き込まれて余計に面倒臭いことになりそうだ。
「三井寺君、少しいいかな? 二人だけで放したいことがある」
何故か運転手さんに呼び出されてしまったぞ。
「告白?」
「キャー」
女子達が何か騒いでる。馬鹿めと言ってやる。あと、セーラちゃんを汚染するな。
海を見下ろす丘の上で、向かい合って岩に腰をおろす。昭和生まれの人って、なんか海を見るの大好きだよね。
「私には誰にも言っていない秘密がある。君にだけは聞いておいて欲しいと思う」
「はあ」
訳がわからないけれど、なんか真剣な話みたいだし、一応ちゃんと聞こうか。
グラさんだと超重要な話を冗談交じりにできたんだけどなあ。相性かな? それともグラさんの人柄か?
「知っての通り、私のジョブ、というのかな、百姓なんだけどね。植物を上手く育てることができる。実はそれだけじゃないんだ」
まあねえ。僕だっておならで空を飛んだり、魚を凍らせたりできるとは予想外だったよ。なにせ魔法だからね、応用次第でいろんなことができる。
「私はね、植物の言葉を聞くことができるんだ。王宮では至る所に花瓶が置かれてあったろう? 毎日新しい花に取り換えて、古いのは捨てられる。堆肥を作ろうと思ってね、そういった生ごみを集めていたんだよ、私は」
なるほどねえ、綺麗な花瓶の花にも、舞台裏ではそんな話があったのか。なんか凄く無駄な気もするね、造花でいいじゃない。
「それでだよ、私は聞いてしまったんだ。花達が聞いたいろんな秘密の話を」
いい歳をしたおっさんが、お花の言葉が聞こえるとか、ちょっと怖い。だけど能力自体は超ヤバイよね。下手な忍者とかよりよっぽど優秀だよ。わざわざ城に忍び込まなくても、捨てられた花を回収すれば盗聴し放題だ。
この能力のキモは、どんなに警戒されていても逆探知に引っかからない点だな。
「賢王は、勇者に私達全員を殺させるつもりだった。そうすれば勇者に全ての力が集まり、とてつもない超人が完成するからだ。この話にはさらに続きがある。別に勇者でなくてもいいんだよ。日本人同士で殺し合えば、勝った方に力が受け継がれる。どうもそういうルールのようだ」
うん、知らなかったけど、知ってた。蠱毒だしそんなもんだろうね。
だけどもう術式は無くなったんだ。
「大丈夫ですよ。そのルールは消滅しちゃいました。だから賢王は力を失ったんですよ」
「なるほどね、確かにそうかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。問題は、このルールを知っている人間が他にもいるってことだ。勇者君以外にも担任の先生は知っていた。聖女の子や、不良っぽい子も知っていた。悪魔が囁いたんだ」
悪魔? 悪魔ねえ。あのリッチのことかな?
「本当に君が言うようにルールが無しになったとしても、彼らはそれを信じるだろうか? 強くなろうとしてやっちゃうかもしれないよ」
「確かに」
これはマズいな。むしろ真のボスや裏ボスが残っていた方が楽だったかもしれない。
面倒臭い連中がそれぞれ勝手に面倒臭いことを始めたら、カオスだよ。次に何が起きるかまったく予想できなくなった。
「だからねえ、嵐が過ぎ去るまで、この島に引き籠っているのが一番いいと思うんだよ。耕作地をもっと広げていこう。安全になるまで何年でも。彼らが殺し合っていなくなるまで」




