閉ざされた道
「勇者達がダンジョンから戻らない? いい気味ですが心配ですね」
聖女鈴木は千里眼の魔法で勇者須田の様子を窺う。
「大丈夫、生きてますよ。迷子になったのか、それとも逃げたのかしら?」
最近、賢王の元を黙って去るクラスメイトが増えている。おかげで聖女の周辺にも監視が増えた。
『いろいろ上手くいっていないようね、賢王のたくらみは』
「ダンジョンに向かう道が消えたみたいですよ。捜索隊も出せないって騒いでいました」
「遠い場所に繋がる道を魔法で作っていたのでしょうね。術者に何かあったのかもしれません」
「そんな魔法があるなら、日本へも戻れるのでは?」
「わかりません。出来なかったら皆を失望させます、無責任な噂は流さないように」
皆は本当に帰りたいのだろうか? 不遇職を引いた者ほど帰りたがる傾向がある気がする。聖女になった鈴木は勇者に次ぐ大当たりだ。それでも安全に戻る手段があるなら……凄く迷うだろう。
なんといってもこの世界には娯楽が少ない。魔法はあっても便利な電化製品はない。ネットも、テレビすらないのだ。王侯貴族であっても、衣食住の全ての質が現代日本に遠く及ばない。
いや、貴族階級ともなれば部屋の広さだけは無駄に広いけれど、快適さとは縁遠いものだ。掃除一つとっても大勢の使用人が必要で、人を使うというのはそれなりに面倒臭いことなのだ。
賢王は頭を抱えていた。異世界から勇者とその眷属達を召喚すれば、魔王の軍勢をも倒し得る力が手に入る。ローブをまとった謎の大賢者に唆され、国家予算の多くを注ぎ込んだ。秘蔵の武具も大盤振る舞いで放出した。
最初は全て上手くいっていたのだ。異世界人は成長が早い、促成栽培して最終的には勇者一人に経験値を喰わせる。それで最強のワンマンアーミーが完成する筈だった。
戦争には、特に外征には途方もない金がかかる。兵糧を買い集め、前線まで送る。たったそれだけのことに、国庫は瞬く間に空になる。どんなに野心があっても、金がなければ戦争はできない。短い人の一生の間に、一体いくつの国を征服できるだろうか?
だが、一人だけの軍隊なら大して兵糧は必要ない。毎年だって戦ができる。
無論、都市の制圧には正規軍を動かす必要があるが、勇者に敵の将軍を倒させた後に進軍すれば最小限の兵糧で済む。
まずは手始めに隣国を呑み込み、数年で人族の国家を統合。しかる後に魔王を倒し世界の覇者となる。
荒唐無稽な計画だが、大賢者の英知と勇者の力があれば不可能ではない。あとは自分の寿命が尽きる前にどこまでやれるか、それだけだ。
だが、大賢者は姿を消してしまい、彼の作り出した奇跡の技の数々も力を失いつつある。
中でも魔法の道の消滅は致命的だった。莫大な利益を上げ始めていた遠隔地との交易ができなくなるだけでなく、世界中に散っていた賢王の部下達は戻れなくなった。勇者ですらも。
このままでは世界の覇者になるどころか、逆に隣国に攻め込まれて全てを奪われるだろう。
力こそ全て、弱った隣国を見逃してくれるほど甘い王はこの世界にはいないのだ。
「残された最後の手札は……聖女か」
賢王の名は伊達ではない。手持ちの情報を分析し、起死回生の策を次々に捻り出していく。
目的は世界征服から自国の防衛に大きく切り替わったが、彼の目はまだ死んではいなかった。




