大香辛料時代
三日間の島流し生活で、あの竹井がびっくりするくらい更生した。バスガイドの梅木さんに従って真面目に干物作りに精を出すようになった。
磯の小島では干物作りくらいしかすることがないから、面白さに目覚めたのかもしれない。
バスガイドさんグループが問題を起こさなくなったと思ったら、今度は運転手さんグループがギクシャクし始めた。
どうもバスガイドさんに黙れと叱りつけられたのを、まだ根に持っているようだ。言論封鎖は民主主義の敵だとか、私は決して黙らないとか、面倒臭そうなことを言っている。
種を蒔いた後ほぼ放置していても、セーラちゃんの力でそこそこ順調だから、農作業が閑なのかもしれない。小人閑居して不善をなす。
みんないろいろプライドとかあるからね、人間関係は難しいねえ。
やはり賢王の追っ手に怯えて島から出られない状況がストレスの元だと思う。もう全て終わってるんだと賢王に気づかせる方法はないものかなあ。
一応、賢王もまんまと騙されて手駒にされた被害者なんだよ? 僕達にとっては加害者だけど。
素直に僕の話を聞いてくれたなら、そして信じてくれたなら。賢王だって叶わない夢を追い続けなくて済むのに。
残りのクラスメイト達もなんとか逃がせばいいんだろうけれど、僕のやる気がほぼゼロだから困る。これ以上の厄介事は御免だ。
アニメやラノベの主人公って、やる気があるから凄いと思う。僕だって少しは使命感とかあったけど、眠くなったらもういいやってなもんで、翌日に先送りし続けているうちにもうどうでも良くなったね。
カレーが食べたいな。
そうだカレーを作ろう! カレーのためのモチベーションなら有り余るほどあるし。
美味しいカレーができたなら、カレーの力でクラスメイト達の争いを止めることもたやすい。カレーは偉大だ! カレーは世界を救う! わりとマジで。
まずは、ギスギスしている運転手さんとバスガイドさんを仲直りさせよう。共通の目標のために一致団結するんだ。
「というわけで、カレー一合作戦を発動します!」
「ルーがないよ。バスにあったカレールーは全て賢王の手下が持ち去ってしまった」
「この世界にも様々な香辛料があります。クミンとかそういうのが何種類かあれば作れるんでしょ?」
僕が知っているのは、クミン、コリアンダー、ウコンくらいだ。ニンニクやトウガラシ、それにマスタードなんかを加えても美味しいと思うね。
「まさか、スパイスから作る気かね?」
「あら、いいじゃない。クミンとターメリックだけでもカレーにはなるわよ」
「梅木さんカレー作ったことあるんですか? それは心強い!」
バスガイドさんが女子力も凄かった件。カレーって女子力?
「お姉さんに任せなさい。アパートのお隣さんがネパール人でいろいろ大変だったんだから。とにかくじゃんじゃん手当たり次第に香辛料を集めて来てよ。組み合わせ次第じゃそんなに種類は必要ないから」
「今あるの香辛料は、ニンニク、ショウガ、ウコン、カラシダネくらいですね」
「ウコンってターメリックのことよ! いきなりチェックメイトよ」
なんだよそれ。ウコンって不味いショウガみたいな奴だよ? カレーとは全然違うのに。
「とりあえず世界中を回って手当たり次第に集めてきますね」
今回は僕一人で行くとしよう。
香辛料は基本高価だけれど、産地では安く手に入る。スーパーの棚に安く並んでいる香辛料は、大航海時代には同じ重さの金より価値が高かったりした。要するに、輸送手段一つってことだね。
世界中を飛び回って香辛料を集めながら、ついでに香辛料取引で稼いでいく。自重して一樽を上限にしたけど、モノによっては無茶苦茶儲かるね。
ぶっちゃけ、ぼったくられたり買い叩かれたり税でほとんど持っていかれたりしたけれど、それでも一日で金貨が何樽も溜まってしまった。
本気で香辛料商人をしたら、とんでもないことになりそうだ。しないけど。
「凄い匂いね。専用の倉庫がいるわね」
梅木さんはそう言いながらもポイポイ仕訳けていく。
「肝心のクミンがないわ。なけりゃないでなんとかなるでしょうよ」
「ジャガイモとタマネギと米は私達に任せてくれ」
どうやら日本から持って来たニンジンは上手くいっていないようだ。この世界にもニンジンはあるけれど、全然甘くない。
セーラちゃんは嬉々として香辛料の種とか撒いている。基本、セリの仲間が多いよね。ウコンはほぼショウガだけど。
本当にカレーができるかどうかはわからない。でも、皆を一致団結させるという点では大成功だよ。
この手は使えるな。次は小麦を手に入れて粉もん作戦だ。お好み焼きにたこ焼き、破壊力は抜群だ。
うどんやラーメンって手もあるね。そうか、カレーうどん! コンボ技は強力だ。
勇者がどれだけの力を手に入れたか知らないが、カレーうどんを目の前に出されて抗えるものだろうか?
まあそんなのどうでもいいや。しばらくはカレーの試食に協力しないとな。
そうだラッキョウ! 小さなタマネギみたいなノビルで代用できないものだろうか?




