罪と罰
商売は一応成功だった。改善の余地が多過ぎて頭が痛いけれど、それもまた良し。
弾道飛行のおかげで、隣の大陸が近所のホームセンター並みに身近になった。なんだったら毎日でも通えるし。
いろいろ買い込んだセーラちゃんもホクホク顔だ。島の暮らしは楽しいけれど、たまには人の多い場所に来るのもいいよね。
魔族の国だと、スリは殺されても文句は言えないので治安もいいし。あれ? でも人間の国でも捕まったスリは手加減なしでボコボコにされていた。なのに治安は悪かった。
民度が違う? 犯罪者の絶対数が違うんだろうか? 魔族の国にも海賊はいるけどなあ。
罪と罰か。刑罰には犯罪抑止効果もあるからね、厳罰は仕方ないと思う、冤罪は駄目だけど。
島に戻ると何やら様子がおかしい。
「ああ、三井寺君。竹井さんと花村君がいなくなった。手分けして皆で探しているところだ。君は飛べるんだから海を捜索してくれ。考えたくはないが、波に攫われた可能性もある」
運転手さんの指示で、島中を調べて回っているようだ。
「小さな島と言っても森には獣もいますし、危険な崖もあります。うかつに動くと二次遭難しますよ。許可した場所以外に行かないように、あれほど言ったじゃないですか」
イタチ程の小さな肉食獣でも、巣を守るためなら凄く凶暴になる。岩場で足を滑らせたらほんの数メートルでも大怪我することもある。この世界は危険がいっぱいで、無論自己責任だ。
セーラちゃんは賢いから危険な場所へは近づこうともしないけれど、この人達は馬鹿なのか?
「緊急事態にそんなこと言ってられないだろう?」
運転手さんは無視して、空を飛んで塚に向かう。入り口に置いた大岩がズラされてるな。レベルアップしていれば何トンだって動かせるか。
塚の中に入ると地下室の入り口で二人の女子が石化していた。侵入者対策に石化のおならを封入しておいたら、見事に引っかかったみたいだ。
石化は状態異常回復系のおならで治せる。毒や麻痺みたいにダメージは入らないし、時間で解除されることもない。魚を生きたまま長期保存するのに便利だ。石化状態の間に壊すと死んじゃうけどね。
うっかり倒して木っ端みじん、とかありそうなので、その場で解除する。
「うわっ! 三井寺!! びっくりするじゃん!」
竹井だっけ? チョイ悪女子グループのリーダー格だ。全方位に噛みついて回るから友達は少なかった筈。
「ここで何をしている?」
「あ、あたしの大事なブローチが転がって……ここに入っちゃったから探してたのよ!」
「ほう? 岩で塞いであるのに?」
「ネズミが……ネズミがくわえて逃げ込んだから。隙間から……」
真面目に嘘をついてるつもりなんだろうか? 騙される奴がいるなら見てみたいくらいだ。
「とにかく今すぐここから出ろ!」
「何よ! 三井寺のくせに偉そうに!!」
もう一人の女子が黙って竹井を引きずって出て行く。
塚の外には全員集合していた。
「ここには近づかない約束だった筈です。すぐに立ち去ってください」
「我々は彼女達を心配してだね……」
「いいから立ち去ってください」
「中で何があったんだ? こんな大きい岩を置いて危ないじゃないか」
運転手さんが何故か怒っている。約束を破っておいて、怒りたいのはこっちだよ。
「秋山さん、行きましょう。ここには近づかない約束だった筈です」
バスガイドさんが言ってくれて、やっと皆が思い出したようだ。そうだそれでいいんだよ。
「しかしだね。ここが危険な場所なら、このまま放っておく訳にはいかないじゃないか」
「いいから黙れ!!」
バスガイドさん怖っ。僕までビクッとしたよ。
運転手さんは怯えるように足早に立ち去って行く。農作業組の女子二人も慌てて追いかける。
「竹井さん、花村さん。あなた達は悪いことをしたの。わかってる?」
女子二人はこくんと頷く。嘘だろ、あの竹井が? やっぱりバスガイドさんは怖い人だったんだ。
「悪いことをした時は、まず謝らなきゃね」
「ごめんなさい」
「ごめ……さい」
謝ったら負けだと言っていた、あの竹井が謝る?
なんかもう、許してやらなきゃこっちが悪い気になってきたよ。
「罪には罰を与えなくてはいけません」
あ、セーラちゃんが厳しい。
「この子達のことは私の責任でもあるわ。一緒に罰を受けます。でも、追放はなんとか勘弁して欲しいの。今この島を出たら、王様の追っ手に殺されてしまう」
「それがわかっていて約束を破ったのだから、仕方ないことですわ。頑張って一日でも長く逃げ回ってください。些少ですが食料とお金をお渡しします」
セーラちゃん、容赦なく厳しい。
竹井がわあわあ泣き出し、花村も抱き合って泣き出した。
「梅ちゃんは島に残って。悪いの私らだから」
「馬鹿ね。あんた達だけじゃ一日で死んじゃうから。こうなったら最後まで付き合うわ」
お涙ちょうだいじゃないか。反省してるみたいだし、なんとかならないセーラちゃん?
「この程度で反省ですって? 三日で忘れますわ。いいでしょう、なら命懸けで反省してもらいましょう。島流しの刑で」
磯の先にある小さな離れ小島に、僕が釣りするために建てた小さな小屋。僕としては秘密基地的な別荘のつもりだったんだけど、セーラちゃんのツルの一声で流刑地にされてしまった。
まあ、たまに大波がかぶるし、それなりに危険は危険だ。三日も閉じ込められたら、少しは更生するかもしれない。
バスガイドさんは減刑の礼を言ってくれたけど、女子二人は顔が真っ青でそれどころではない。満潮時には波しぶきが小屋にかかるからね。それがいいんじゃないか。
絶好の釣りスポットだから飢える心配はない筈だけど、まあ、食事くらいは差し入れしてあげようと思う。




