島の掟
新築した家は大きめに建てていたから、六人の寝場所くらい余裕だったけれど、今後のことを考えれば追加で何軒か建てないといけないだろう。
家づくりのコツみたいなものが少しわかってきたから、今度はもっといい家が作れそうな気がする。
まあ、場所だけ提供してあいつらに作らせるのがいいだろうな。男女平等、働かざる者食うべからずだ。
勝手に木を伐採されたり磯を荒らされたりするのも困る。何よりグラさんの研究室がある塚には近づいて欲しくない。
地下室の研究資料の中には、悪用されれば多くの人々を不幸にしてしまうようなヤバイものもある。持ち出されたりしたら大変だ。
それもあるけど、グラさんとの思い出の場所に土足で踏み込まれたくないというのが大きい。
朝食の席でその旨説明すると、案の定一部の女子が反発した。
「なんで三井寺が勝手に決めるのよ? ここはあんたの島なわけ?」
「そう思ってもらって構わない。嫌なら出て行ってもらうだけだよ」
「横暴だわ! 公平に多数決で決めるべきでしょ!」
はあ、駄目だな。最初からこれじゃ一緒にやっていけそうにない。
「勇者の手が届かない遠くの無人島に送ってあげるよ。そこで好きに暮らせばいい」
「待って! 竹ちゃんは悪い子じゃないのよ。私が責任をもって説得します。だからしばらく大目に見て頂戴、ね?」
バスガイドさんはさすが大人だ。落としどころを心得ている。この世界で生きていくのは大変だからね。追い出されればまず命はない。僕だって本当は追い出したくはないんだ。
その後は運転手さんに貸し出す農地を決めた。セーラちゃん曰く、収穫の三割をもらうのが相場なんだそうだ。三公七民ってことか。たしか北条氏がそんなもんで農民に優しかったと聞いたことがある。よく分からないけど、畑のことはセーラちゃんに任せておこう。
当座の食料や宿代はツケってことにして、僕やセーラちゃんの手伝いをしてくれた子にはバイト代を出すことにした。お金はないから帳簿上の数字が動くだけ。仮想通貨だね、なんとなく単位は円にした。
女子達に陰でコソコソ金の亡者だとか言われたけど、気にしないことにする。
「たみは施しに感謝してもすぐ忘れてしまいます。きちんとお金という形にして貸し借りをはっきりさせるのは大事なことなんです」
セーラちゃんは良き理解者だよ。あれ? ツケにしようってセーラちゃんの発案だったっけ? あれ?
魔族の国は貨幣経済が発達してそうな感じだね。文明度も一世紀くらい進んでたしねえ。
運転手さんやバスガイドさんは、仮想通貨ごっこにかなり乗り気だった。
「生活基盤ができるまで三井寺君に寄生せざるを得ないのは心苦しいですからね。借金という形なら、計画的に返済計画を立てれば済む話ですから」
「実際、アルバイト代とか私達に甘い設定にしてくれてるしね。農作物も高く買ってよ? 米価あげろー、オー!」
バスガイドさんは漁村の出身だそうで、アジの干物やスルメなんかを上手に作ってくれた。女の子達をバイトに雇って干物の大量生産をしてくれるのはいいんだけれど、ぶっちゃけアジはおなら魔法では捕獲がわりと面倒なんだよ。アジングタックルがあればなあとは思う。
おなら漁法では水面から飛びだす魚が簡単にゲットできます。
カツオの群れの上空を併進して、空中に逃げるイカやトビウオなんかは超簡単。特にトビウオは飛行時間が結構長いので、余裕をもって回収できる。
他にもイワシなどの小魚が一斉にぴょんぴょんすることがあるし、追いかけているカツオやシイラ、カジキなんかが夢中になって飛び出すこともある。
朝や夕方に海岸から海を眺めていると、大きな魚がジャンプしているのが良く見えるんだけれど、あれを狙うのはモグラ叩きみたいでちょっと大変。狙っている場所からはなかなか飛び出さないで、明後日の方向でバシャッとジャンプする。
成功すると型のいいスズキやボラなんかが回収できる。確実に狙うならおなら魔法の工夫が必要だろうねえ。
「ボラも干物にするんですか?」
バスガイドの梅木さんは干物マスターだ。なんでもかんでも干物にしてしまう。
「ボラはお刺身も美味しけど、食べきれないでしょ」
「ボラなんかがこんなに美味しいなんて、なんか悔しいです。日本じゃ臭くてリリースしてたのに」
「ドブ川のボラも味は悪くないわよ、臭いけど」
食べてたんだ。バスガイドのお仕事って意外に大変なんだなと思った。
干物も美味しいけれど、どう考えても食べきれない程溜まってきた。
売るとしたら魔族の国だなあ。
「干物を売って小麦や布を買いましょう。針や糸も欲しいですし」
「魚醤も買ってみたいね、できれば作り方も知りたい」
セーラちゃんと二人で大冒険に出かけよう。ただのお買い物だけどね。