野荒しは重罪らしい
「野荒しは重罪だぞ!!」
凄い剣幕の男に思わずたじたじとなる。
「あ、こいつ三井寺じゃん」
誰かと思えば……多分クラスの女子じゃないかな? 日に焼けて真っ黒になっているので誰が誰やらさっぱりわからん。
そういえばセーラちゃんは全然焼けてないな。外で走り回るのは早朝と夕方で、日中はお昼寝してるからなあ。
「三井寺ってハズレで追放されたんじゃなかった? なんで生きてるのよ」
「うわ、ひどっ! 生きてて良かったじゃん」
「別にそういう意味じゃなくってさ」
なんかひどい言われようだな。全部で六人か、男以外は全員女子か? ああ、一人はバスガイドさんか。
ということは、この男、ひょっとして。
「バスの運転手さんですか?」
「君は生徒さんかい? 怒鳴ったりしてすまんかった。面白半分に作物を荒らす兵隊がいるんでね」
そう言われれば、今の僕はこの世界の服を着ている。いわゆる布の服だ。ちょっといい生地だけど。
兵士だって普段は布の服だからね。鎧とかずっと着ていたらいろいろヤバイことになる。
「みんなが酷い目にあってないか心配で見に来たんですよ。あ、これお土産です」
泥棒に来たことはなかったことにしよう。昨日捕ったカツオとイカをおすそ分けすることにした。活〆直後にドライアイスで冷凍にしてあるから、そこそこ美味しいよ。こだわるんなら熟成とかさせた方が美味しいんだろうけど。
「でかい魚! あんたどこから出したのよ!」
「アイテムボックスね! やっぱりあるのね!」
「カツオだね! 新鮮そうだけれど、生食できるかね?」
運転手さんの目の色が変わる。
「僕はいつも刺身で食べてますけど、試してみます?」
いきなりカツオの解体ショーが始まった。
愛用の包丁……海賊の財宝の中にあった宝石だらけの短剣で、まずはウロコを皮ごとそいでいく。
おならカッターをエンチャントしているから切れ味は抜群だ。おならで食べ物を切ることに最初抵抗があったけど、よく考えたら飛行中は呼吸用のおならを使ってるからね。成分としては大気と変わらない。酸化を防ぐためには二酸化炭素や窒素を使った方がいいかもしれないけどね。
「凍った魚をお豆腐みたいに切ってるよ」
「三井寺君、板前さんみたい」
用意してもらった木皿に、まだ凍っている刺身を盛りつけていく。
「おろし生姜と塩でお召し上がりください」
ショウガと自作のおろし金を出しておく。
「やっぱり醤油はないのか。これはサメ皮おろしだね、高級品じゃないか」
サメはなあ、ぶっちゃけ美味しくない。調理次第みたいだけど、カツオやシイラやアジがいくらでも捕れるのに、そこまで手間をかけるかという話になる。
捕りたくはないんだけど、海中で作業していると向こうから襲って来る。ヒレは干物に、皮はサンドペーパーに、残りは畑の肥料にしている。干鰯? 美味しいイワシ様を肥料にするなんてとんでもない。
「うっわー、シャーベットみたいで美味しい!」
「カツオのタタキなんて久しぶり? タタキじゃないけど」
「こっちの世界にもカツオがいたんだねえ。日本酒があれば死んでもいいよ」
大好評なのでイカソーメンも作ってあげる。融けかかったタイミングで手際よく皮を剥いてしまうのがコツだ。
生きたまま皮を剥いて、下ごしらえしてから冷凍する方が多分美味しいだろうけど。
アニサキスがいるから冷凍は必須だ。アニーがいるってことは、多分、クジラもいるね。クジラ食べたいけど、一頭は食べきれないから困ったもんだ。
「イカソーメン嫌いだったけど超美味しい」
「君は酒飲みのツボを心得てるね。立派な酒飲みになれるよ」
いや、お酒はどこがいいのか正直わからんのですよ。
「ならこんなのはどうです?」
ガラスの広口瓶に入ったイカの塩辛と塩ウニを取り出す。今日の夕食用だったけど、帰りにマグロか何か捕まえればいいや。
「うはあ! 美味いぞーっ!! こんな上等なの日本でも食ったことないよ」
「めっちゃウニじゃない! 白いご飯が食べたいーっ!」
「駄目よ! 大切な種籾なんだから」
どうやら既にある程度の稲を収穫できているようだ。
「物は相談なんですけど、種籾とか少し分けてもらえませんか? 対価は用意しますんで」
ウニでもカニでもいくらでも用意できるよ。醤油があれば完璧だったけど……魚醤なら魔族の国で売ってるみたいだし、買い出しに行ってみようかな?
「何でも欲しいだけ持って行くといい。君に頼みがある。私達六人をここから逃がしてくれないだろうか?」
運転手さんがいきなり真面目な顔でそんなことを言い出す。
「六人くらい三時間もあれば余裕だけど……ああ、でもセーラちゃんにも許可もらわないとなあ」
良く知らないクラスメイト達より当然セーラちゃんの方が大事だよ。同郷のよしみ? 脆い絆だ。城から追い出される僕を、皆は嘲り笑っていただけだったからね。




