継ぐのは僕か
古代の塚の地下に、グラさんの研究室はある。
何度か入れてもらったことはあったけれど、いつもグラさんが灯りの魔法を使ってくれていた。
果たして地下室で火を灯して良いものだろうか? せっかく何度も死線を超えて生き延びたのに、一酸化炭素中毒とかでぽっくり逝ってしまったら、それこそグラさんに合わせる顔がない。
こんなことで しんでしまうとは なさけない
グラさんの髑髏顔が脳内再生された。そうだよな、君子危うきに近寄らず豹変す。素直にセーラちゃんに頼もう。
初めて地下室に足を踏み入れるセーラちゃんは、傍目にもワクワクしているのが丸わかりだ。
さすがは魔族のお姫様、灯りの魔法くらいは朝飯前なんだよ。
「やっぱり散らかってるわ。男の人って片づけられないのね」
「そうかなあ、確かに物は多いけど、それなりに纏めてそうではあるよ」
物が多過ぎるから仕方ないと思う。ダンシャリだっけ? ああいうのはグラさんには無理だと思うね、骨だけに。
「かび臭い? 古文書の保管に湿度は大敵だと教わりましたが」
「古文書になるのかなあ?」
書いた本人は昨日までご存命でしたが? グラさん……考えるとまた鬱に……
「大切な書物は百年ごとに書き写すんですよ。後世に遺すべき知識の取捨選択をするんです」
原始的だなあ。あ、でも、現代日本に溢れている出版物の一体どれだけが百年後に残っているだろう?
「なるほど、歴史のふるいにかけるわけだね。それを考えると責任重大だ……困ったぞ、この文字は読めないや」
オーリィさんのとこで、簡単な読み書きくらいは教わったけれど、文字そのものが全然違う。画数が多い複雑な文字、種類の多さから考えておそらく表意文字だよ。
「コテン文字ですね。教養として教えられましたけど、まさか役に立つことがあるとは。海賊、宝、地図? この棚は全部、海賊の宝の地図みたいですよ!」
グラさんの財布だね。海賊って集めた財宝を無人島に埋めるけど、そのまま忘れてしまうことが多いらしい。リスみたいだ。
「私達お金持ちですよ?」
「お金に困ったら探しに行くのもいいかもね。あと暇つぶしに暗号を解くのも楽しいって言ってた」
「本当だ。もう全部暗号が解いてありますよ! 嬉しいような残念なような」
いや、セーラちゃん。宝の地図なんてグラさん的には大して価値のないものだからね。魔法の研究資料的なものがある筈なんだ。世のため人のためになるものであると同時に、悪用すればとても危険なものでもあるんだ。
マンガとかだと科学者の弟子の中に悪の天才みたいなのがいて、世界征服を企んだりするんだけど、ああいうことって本当に起きるんだろうか?
というか、グラさんみたいな人格者と比べれば大抵の人間は悪人ってことになってしまうぞ。僕だって強い力を手に入れたら無茶苦茶してしまうかもしれない。既におならの力で結構無茶してる自覚あるし。
「見て見て! 宝石箱ですよ!」
セーラちゃんが木製の小箱を見つけて興奮している。そういえばそういう話もあったね。
「グラさんがセーラちゃんにどれか一つ好きなのあげるって。約束してたお土産の代わりだって」
別に全部あげちゃってもいいと思うんだけど、グラさんの言葉を尊重しよう。選ぶことに何か意味があるのかもしれないし。
「うわあ、ありがとうグラさん。どれにしようかなあ」
箱の中には鉱物標本みたいな石が収められていた。
「綺麗なものだなあ」
「宝石の原石もありますね。どれも素敵」
グラさんはただの綺麗な石だと言っていたけれど、そもそも宝石って綺麗な石のことだからなあ。多くの人が欲しがるようになれば、価値が認められて取引されるようになるんだ。
グラさんの審美眼は本物だったってことか。
「私、これを頂きますわ」
セーラちゃんが選んだのはビー玉くらいの割れた石だった。何の変哲もない石だけど、割れた部分からは無色透明な中身が露出している。光を受けると七色の炎がゆらゆらと幻想的に躍るのが見える。
「オパールか何かかな?」
「グラさんの瞳の炎に似ているでしょう?」
ああ、そういうことか。物欲じゃないんだね。贈り物って、贈る方も貰う方も品性を問われるよね。
山吹色の小判みたいなのも、それはそれで分かり易くていいけど。お主も悪よのうってね。一生に一度は言ってみたい。
肝心の研究資料は膨大過ぎて、セーラちゃんもお手上げだった。
こういうのって、時間経過のないアイテムボックスにでも収納して、信用できる者に受け継いでもらうのがいいらしい。
塩漬けにして先送りか。よく聞く話ではあるよね。永遠に塩漬けにされたままになりそうではあるけれど。それでもグラさんは笑って赦してくれると思う。
ジョブが賢者とかだったら有効利用できたかもだけど。まあ、無い物ねだりをしても仕方ない。悪い奴の手に渡さないことが重要なんだ。




