その頃の大人達
とある森の中。朽ちかけた古い倉庫の中で二人の男が奇行を繰り広げていた。
下っ端の兵士達を使って民家の床土を運ばせている。雨に濡れない場所で何年も経った土、便所の近くならなお良いとのこと。
兵士達は奇妙に思いつつも言われた通りにしている。召喚された連中は皆おかしい。少なくとも命の危険はないだけマシな任務だった。
「先生、これ臭いっすよ」
「文句を言うな。これは古土法と言って由緒正しい硝石の製造法なんだぞ」
「古土法くらい知ってるっす、戦国転生モノの定番だし。魔法のある世界で黒色火薬なんて作ってどうするんすか?」
「戦いは数だよ、知らんのか? 俺は賢者だから大抵の魔法は使える筈だが、パンピーは魔法なんて使えない。銃で世界を変えるんだよ。錬金術師のお前の得意分野で戦闘職の連中を見返せるんだぞ。それとも何か? 馬鹿どもと一緒にオークを狩りに行きたいのか?」
「戦闘は嫌っすね。生産してる方が経験値効率いいのに、わざわざ危険な場所に行くのは馬鹿らしいので」
「どうやらジョブに適正のある行動をすることで経験値は得られるようだからな。馬鹿どもはまだ気づいていないようだが、いずれ戦闘経験は頭打ちになる。カルマを貯め込んで自滅するんだ」
「あの、そういうの教えてやんなくっていいんすか? 一応先生でしょ?」
「俺はなあ、昔っから馬鹿な生徒どもが大嫌いだったんだよ。異世界にまで来てなんでクソガキの面倒みなきゃならんのだ?」
「まあ、わかりますけどね。ボクもあいつらは嫌いだ。でも運転手さん達は仲間っしょ?」
「ああ、ジョブが百姓のジジイか。あいつは聞き分けがいいからな、役に立つ間はせいぜいこき使ってやるよ。賢者も錬金術師も主人公になれるジョブだけどな。百姓じゃ無理だよなあ、あはは」
『先生の理論だと、百姓は農作業で無茶レベルアップしてる筈なんだけどな。まあいいか、ボクは火薬製造でレベルを上げよう。ヤバくなったら全部先生のせいにすればいいし、だって本当のことだし』
錬金術師のジョブを得た有田少年は、火薬製造機として利用される道を選ぶ。経験値効率は悪くなかった。
できあがった火薬で馬鹿が何をしようと知ったことではない、何故なら彼もまた可哀そうな被害者だからだ。
火薬の密造小屋から少し離れた場所に、小さな開拓村があった。数人の被召喚者と監視の兵士達が暮らしている。
「稲の生育は順調。カボチャ、サツマイモ、ジャガイモ、トマトも今のところ問題なさそうですね。心配なのはニンジンとトウモロコシ。イチゴ、リンゴ、キウイフルーツ、アボカドはどうなるかわかりませんね」
「運転手さん! こっちの畑にも何か生えてきてますよ!」
「ああ、多分鷹の爪でしょう。まさか芽が出るとは思いませんでした」
「缶詰のチェリーは駄目だったの?」
「死んだ種からは芽が出ませんよ。おや、フルーツサラダを撒いたあたりに何やらまた」
「何があったっけ? スイカ? メロン?」
「ああ、ドラゴンフルーツもあったんじゃない? あとブルーベリー」
「最近の学生さんは随分ハイカラですねえ」
「あはは、今どきハイカラとか普通言わないよオジサン」
百姓のジョブを得た元バス運転手の秋山と、虫使いの羽山、結界師の赤松。日本から持ち込まれた植物を有効利用すべく急遽編成されたチームではあったが、順調に成果を上げつつあった。
「早くご飯が食べたいな」
「最初の収穫は全て種籾に回して、食べるのはその次からですね」
「えー、来年かあ」
「ここは常夏の国だそうですからね。二期作、三期作もできるかもしれませんよ」
「あー、なんかガッコで習ったよね、それ」
「連作は病虫害が出やすいので、羽山さんの力に期待してますね」
「はあ、一応頑張りますけどね。私、虫苦手なのになんで虫使いなんだろう」
「あたしの結界は役に立ってるよね」
「もちろんですとも。鳥害は馬鹿になりませんからね、鹿や猪が出たら畑は終わりです」
「よっしゃー、やる気出たし。イチゴのために頑張ろう!」
「多分、ジャガイモとトマトが一番早く収穫できますよ」
「えー、トマトなの?」
「じゃがバター、じゅるり」
三人とも常時発動系のスキル持ちであり、経験値は微々たるものであったが一日あたりだと馬鹿にならない。
すくすく成長する農作物と共に、すでにかなりの高レベルになっているのだが、本人達も気づいていないのだった。




