島の一日
またいつも通りの島の一日が始まった。
といっても、セーラちゃんがこの島で過ごしたのはほんの数日なんだけどな。
僕だってまだ十日くらい? それでも島に戻るとなんかホッとするのは何故だろう?
グラさんはさっそく地下室にこもって、手に入れたクリスタルのプレートを弄り回している。僕のためにやってくれているんだから凄く有難い話なんだけど、絶対自分が楽しんでるよなあ。
セーラちゃんは、今日は草むらで小さなバッタを追いかけ回して遊んでいる。本人は食料調達しているつもりみたいだ。
「逃げちゃ駄目よ。あら、この子は汁けがたっぷりね。美味しいかしら? きっと柔らかくて美味しいわ」
捕まえた虫に話しかけながら、メザシみたいにエノコログサの茎に突き刺していっている。やっぱり文化が違うねえ。
まあ、幸せそうだしいいか。
僕は家を建てようと悪戦苦闘している。おならカッターがあるから石材は思い通りにカットできるんだけれど、下手に作って崩れた家の下敷きにはなりたくない。
基礎と壁の下半分だけ石で作って、屋根は茅葺き……は難しそうなのでヤシの葉なんかをかぶせようと思ったんだけれど。
竪穴式住宅とか、高床式倉庫とか、大昔の人達はひどく原始的な暮らしをしていたと馬鹿にしていたけど、いざ自分で作ってみると原始的建造物にも遠く及ばない。
雨風を防げて快適な生活を送るためには、工夫しなければならないことは山ほどあるんだ。一度で完成させるのは無理に決まっていた。
とりあえず近くの島の建築様式を参考にしてみて、気になったところから改善していけばいいか。材木に使えそうな流木も集めたいし、適当に飛び回る。
中途半端な高度を飛ぶと人目につきやすいので、海面スレスレをホバー移動するか、高空を飛行するかだなあ。
望遠鏡を持っている人は限られていると思うから、そこまで気にしなくても良さそうだけどね。
天使や人魚の存在だって信じられている世界なんだし、僕が飛んでたからってどうだって話だよ。地球でもUFOや宇宙人の存在は半信半疑で信じられていた。いないよりいた方が面白いし、いてもおかしくないと思えるし、いろんなメディアでたまに取り上げられるし。同じだよ。
ああ、空飛ぶ宝島の話をちょっとしただけで、海賊達は信じちゃってたしなあ。セーラちゃんまで本気にしたみたいで、いろいろ聞かれてしまった。
見て来たように嘘をついた……嘘じゃない、フィクションだ。御伽噺だ。いろんなアニメとかの設定を取り混ぜて面白おかしく語って聞かせていたら、グラさんまで真剣に聞いていた。
この世界の昔話にも、天上の都の物語はあるらしい。月より高い場所に、人のいなくなった大都市が眠っているそうだ。
だからどうしたって他愛ない話だけれど、小さい子供達は寝物語にそんな話を聞かされてワクワクするんだね。
ここは娯楽の少ない世界? 本当にそうなんだろうか? そもそも娯楽って質と量があればいいってもんでもないでしょう?
拾い集めた流木を適当に切り揃えていくだけの作業がやたら楽しい。ままごとみたいな家づくりなのはわかっているんだ。それでもある程度の役には立つだろう。
セーラちゃんの虫取り遊びも同じだ。腹の足しにもならないけれど、生きていくためにきっと役に立つんだ。
炎で焼いた石の上にバッタを並べて焼いていく。
「生焼けは駄目ですよ。悪い蟲がお腹にいる時があるので」
ハリガネムシかな? 加熱も大事だけど、網の中でしばらく飼って糞出しした方がいい気がする。そんな都合のいい網なんて無いんだけどね。
セーラちゃんに分けてもらった炒ったバッタは、目玉が大きくてイナゴみたいな顔つきをしていた。
バッタよりイナゴが美味しいって言うよね? 塩を振って食べたら普通に食べ物だった。こうやって慣れていくんだなあ。
食べきれないほどあった冷凍マグロはセーラパパにお土産で全部あげちゃったし、明日は僕も真面目に漁をしないとなあ。
今日は貰って来たパンの残りを齧ろう。そんなに硬くもなっていないじゃないか。石みたいになって歯が立たないってのは、セバスチャンのジョークだったみたいだ。
生きていくには毎日食べないといけない。保存食は大事だね。僕は冷凍手段があるからまだいいけれど、この世界の人達は本当に頑張ってるよ。
一日分の肉や魚を狙って捕るのって難しいからね。猪やマグロなんかだと大き過ぎて食べきれないし。
やっぱ穀物は便利だねえ。ジャガイモとか米とかあればねえ。
一生懸命隣でパンをかじっているセーラちゃんを見て思う。全てを撒き戻す前に、この子に種イモと種籾を持たせて父親の元に帰せば幸せになるだろうか?
あれ? でも巻き戻すってことは、米なんかも全部無かったことになるのか。
やっぱりセーラちゃんはあのまま海に落ちる運命なんだよなあ。それで死んだと決まった訳じゃないし。どうせ異世界に来なかったことになる僕には、出来ることは何もないんだ。
それでいいんだろうか? いや、僕がそうしたいかどうかだな。目的は蠱毒の術式を完成させないことであって、願い事はなんだっていいんだし。
日本に戻れなくなっても構わないなら、グラさんやセーラちゃんとこんな毎日を続けることもできるんだ。そういうのも悪くないかもね。
セーラちゃんの結婚云々を本気にしたわけじゃないけれど、セーラちゃんは可愛いし、一緒にいて面白いし、あと数年もすれば凄い美人さんになりそうだし……
「オサム様。ヤギを飼いましょうよ! バターやチーズを作れますよ」
「ヤギはねえ。島で飼うのはお勧めしないな。草を食べ尽くして禿山にしちゃうかもしれないよ」
「そうなの? 残念。じゃあ、今夜は禿山のヤギのお話して」
「ああ、もうそんな時間か。じゃあお風呂は一人で入るんだよ」
泉から流れ出る小川の河原に、いくつも穴を掘って湯舟を作ったんだ。勝手に水が湧いてくるから、岩を削って作った浴槽より便利だ。
焼けた石を放り込むとあっという間に温泉だ。薄板の衝立を立てればプライバシーも確保できる。
「焼け石に触って火傷しないようにね」
「……もう触らないわ」
僕も注意しながら自分の穴に入る。一番星を見ながら露天風呂とは贅沢だね。底の砂から冷たい水がどんどん湧いてくるから、冬場は長風呂はできないだろうけど。あー、この地方って冬とかあるんだろうか? 寝る時にグラさんに聞いてみよう。




