飛行宝石の謎
大型船が海賊に襲撃されているのを、文字通り高みの見物をしている。
人が芥子粒のようであまり良く見えない。でも高度を下げるとこっちが見つかってしまうかもしれないからねえ。望遠鏡があればいいのに。
まあ、映画のように血沸き肉躍る戦闘じゃないのは見て取れる。襲撃された側は結構あっさり降参するし、中には即座に海賊側に寝返って略奪に参加しちゃうちゃっかりさんも結構いる。
「子飼いの家臣でも命を懸けてまで戦う者は少なかろう。忠誠にそこまでの利があるかどうかじゃな」
「ああ、そう考えちゃうんだね」
「薄給でこき使っておいて当たり前のように忠誠を期待する馬鹿者は、いつの世にも多いからのう。恨みと共に貯め込んだ財宝も、略奪される時は一瞬じゃ」
なるほど。治安が悪い異世界じゃ金持ちも大変だなあ。お城に引き籠ってるのが賢明なんだろうけど、それだって絶対じゃないし。戦力を強化しても裏切られたんじゃ意味ないし。
「貧乏も大変だけど、金持ちもちょっとは苦労してるんですね」
「生きていれば苦労もするじゃろ。それ故に面白い」
骨になったグラさんが言うと説得力があるなあ。
あ、囮をしていた帆船が大型船に向かっていく。本気を出せば速いんじゃないか。
多分、あの船に親玉のドリアンが乗っているんだな。本人じゃなくて幹部クラスかもしれないけど。
おそらく捕虜はあの船に移される筈だよ。その瞬間がチャンスだ。太陽は水平線に沈み、空はどんどん藤色に。一番星も見え始めている。これなら高度を落としても見つからないだろう。
一瞬、誰かに見られているような気がしたけれど、気のせい気のせい。発見されても強行突破あるのみだ。おなら気化爆弾の威力を落とせば、木造帆船を大破させることくらいたやすいんだよ。
でもなあ、一人の可哀そうな女の子を助けるために、罪深い何百人もの荒くれ者達を海に放り出すのは果たして正しいんだろうか? 悪党にだって女房や子供もいるかもしれないんだ。
まあ、成り行き次第じゃやっちゃうけどね。
角灯って言うんだろうか? ちょっと丈夫な船用のランプが灯されて、接舷する二隻の船を照らしている。なんだろう、原始的な照明が加わっただけで、悪党達の船が幻想的に見えるから不思議だ。
滑車式の渡り板が大型船に固定されると、いかにも海賊船長っぽい大男がよじ登って来た。渡り板に桁のような横木が打ち付けてあるみたいだ。便利だな、さすがは海賊船仕様だ。
大型船の船尾楼から、縄で縛られた捕虜達が次々に引き出されて来る。いよいよだな。一気に距離を顔が見分けられるくらいまで詰める。
あ、婚約者の人だ。海賊船長に命乞いしてるみたいだな。
この世界の海賊は身代金次第でなんとかなるらしいけど、状況的にそういう一線は越えちゃってる気がするよ。
あっ、海賊船長が剣を抜いた。首を跳ねたのか? 太刀筋が見えなかったよ? あいつは戦っちゃ駄目な奴だ。
嫌な奴でも目の前で殺されるとショックだな。ほんの少しスッキリしたけれど、そんな自分が恐ろしい。人間の本性ってヤバいよ。
セーラちゃんが引っ張り出されて来たけれど、海賊船長が直々にお持ち帰りするようだ。
これは、隙がないな。渡り板を降りる瞬間がチャンスだろうけど、あいつの剣の間合いに飛び込むのは自殺行為。催眠おならで眠らせるか?
セーラちゃんがいきなり走り出し、海に飛び込もうとした。惜しい! 下っ端海賊に阻止された。でもここがチャンスだ!
急降下して甲板に飛び降りる。一秒あればセーラちゃんを救い出せる筈だった。
が、僕の奇襲をあらかじめ知っていたかのように、下っ端どもがセーラちゃんに剣を突きつけて人質にしてしまう。
「ほう、やはり狙いは姫君か。ずっと空から吾輩を見下しておったな。そんなことができるのは伝説級の魔道具に違いあるまい。よこせ!」
海賊船長はお見通しだったか。そう言えば腰に望遠鏡をぶら下げているな。望遠鏡の原理自体は単純なもので、レンズさえ手に入れば小学生だって作ることができる。異世界を舐めてたなあ。
だけど、僕だってこんなこともあろうかと小道具は用意している。
首飾りを外して海賊船長に良く見えるように突き出してやる。
大粒の見事なルビーが、角灯のゆらめく炎を受けて妖しく輝く。沈没船の財宝の中から見つけたもので、宝石なんて興味なかった僕でも手放したくないくらい美しい。
「飛行……宝石だよ。知らないか? 伝説級のお宝の飛行宝石を。これこそが空飛ぶ宝島への鍵なんだぜ」
「飛行宝石!! 空飛ぶ宝島だと!! 信じられん! だが欲しい!!」
海賊船長の瞳がギラギラと輝きを増す。そこには血塗られた欲望だけではない、夢見る少年の輝く瞳が確かにあった。
いい歳して海賊船長なんてやってるんだ。この手の冒険ロマンは大好物だと思ったよ。
釣れたな。




