大海賊あらわる
船団はこの世界の帆船としてはかなりの高速で航行している。向かい風でもジグザグに進むことで風上へ向かうことができるようだ。何故そんなことができるのか? 物理法則を無視している気がしなくもないが、現実にちゃんと進んでいるんだよなあ。特に魔法も使ってないみたいだ。
さすがに船のスピードに合わせて飛び続けるのはおならが勿体無い。なのでだいぶ前に覚えたまま一度も使っていなかったおなら風船の魔法を試す。
仮想の風船におならを詰めるだけの魔法で、おならチャージがあれば無意味だと思っていた。
だけど、水素ガスで膨らませれば浮力を得ることができるじゃないか。長時間空に浮いているには丁度いい。
気球の旅は風任せだけれど、高度を調整してやる必要はある。それでもおなら噴射でホバリングするよりずっとのんびりできる。何だったら居眠りだってできる。
船団から離れすぎないように、たまにおなら噴射で追いかける
宴会で出されたパンが美味しかったので、お弁当用に貰って来ておいて正解だった。見た目はコッペパンみたいで、フランスパンみたいにガリガリだ。
セバスチャンによれば賞味期限などはなく永遠に食べられるらしい。ただし永遠に硬くなり続けるので、歯を折りたくなければ三日くらいで食べきるのがいいそうだ。
塩味だけのパンも、空の上で齧るとなかなかにご馳走だよ。むしろパンだけで食べると麦の香りが引き立つね。
多分、セーラちゃんの婚約者の領地が麦の産地なんだろう。食料自給率は力だ。中世フランスの力の源泉は豊かな農業生産力だった。その後は持たざる国だったイギリスが、農業革命、産業革命と頑張っちゃうんだけどねえ。
農業革命なんてただの輪作だよ。そんなのが世界をひっくり返す程のブレイクスルーになるんだから中世は怖い。ああ、そういえばジャガイモとかどうなったんだろう? あれも世界史を動かした作物だ。下手な勇者よりよっぽどヤバイ奴だよ。
クラス召喚を無かったことにしたら、持ち込んだ物とかも当然消滅するんだろうな。
セーラちゃんとかどうなるんだろう? 僕が助けなければ、あの時海に落ちて、溺れたか海賊に捕まったかだよなあ。
「ん? あの船怪しくない?」
船団の前方に一隻の帆船が見えた。進行方向は同じみたいだけど船足が遅く、次第に船団が近づいていく。
「いや、あの船が襲われる側じゃろう」
護衛の船が一隻、船団から離れて前方の船に襲い掛かる。ああそうだった。カモを見つければ海賊船に化けるのがこの世界の常識だったよ。
「でも、なんかおかしい気がするんですよねえ」
カモがネギしょってたまたま通りかかった? いや、こんなの罠だろ。
案の定、船を横付けして意気揚々と略奪に乗り込んだ先で、待ち伏せにあってタコ殴りにされている。ドリアンの手の者だろうか?
「あっ、見るのじゃ見るのじゃ!」
大型船を護衛の船が襲撃している。まさか裏切り?
「護衛を増やしたのはいいけれど、その護衛が裏切ったんじゃ意味ないよねえ」
「あの娘は大丈夫じゃろか?」
「前みたいに帆柱に登ってくれれば楽なんですけどね。簡単じゃなさそうだ」
甲板上ではガチの斬り合いが始まっている。偉い人達は船尾楼に立てこもっている筈なんだけど、護衛の船の一隻が船尾に回って魔法で攻撃している。着弾するたびに船尾楼がボロボロ崩れていく。所詮は木製だからなあ。
「ふむ、手際がいい。降参するのは時間の問題じゃろうな。捕虜を自分達の船に移すじゃろうから、その時にかっさらうのが良かろう。人間、勝負がついた後は油断するもんじゃ」
グラさん頭いい。いい感じに日も暮れて来たし、その作戦でいこうか。




