美食の宴
セーラちゃんの無事を祝って宴会が開かれた。ちなみに彼女の本当の名前はセルザード。なんか強そう。
僕達はお客さんとして、わりと上座の方に席を用意された。グラさんは食べないんだけどね。
馬鹿みたいに長いテーブルに、様々な料理が並べられていく。ご馳走と言いたいところだけれど、ゲテモノっぽいのもチラホラ見受けられる。毒とか寄生虫の心配がなければゲテモノも興味あるよ。
バイキング形式だけれど、自分で取っちゃ駄目みたいだ。従者の人が小皿に取り分けて持ってきてくれる。
僕には従者がいないので、セバスチャン(仮)が面倒見てくれる。ちなみに彼の本当の名前はバスラン。シンクロ率75%ってところだね。
「大ネズミのローストでございます」
いきなりキツイの来たね! 前菜とかすっ飛ばして肉ってところがいかにも体育会系だ。それはいい。
問題はネズミってところだけど、見た感じは普通にローストビーフかなあ。これなら食べても平気そうだ。口に入れて味わうと、意外に普通だ。ソースの味が強すぎて肉本来の味は分からないけれど、柔らかい肉だ。
一切れだけ味わって残りは下げてもらう。残り物はスタッフが美味しくいただくので、汚らしく食べないように気を使うよ。
「カエルの揚げ物でございます」
ネズミの後だとなんてことないね。見た目はフライドチキンだし。味と食感はむしろ鶏肉より上かもしれない。フランス料理や中華料理では普通に使われる食材だし、不味い訳がない。
これは全部食べても良かったんだけど、スタッフのために少し残す。
「ナマコの酢漬けでございます」
バスランがニヤリと笑ったのを見逃さない。食えるものなら食ってみろって感じだな。日本人を舐めるなよ、海産物に関しては正しく調理されていればほとんど抵抗感はないな。ナマコは別に好きじゃないけど、普通にコリコリ食べるよ。父さんがお酒と一緒に良く食べてたからね。本当は内臓が珍味で高級品なんだけど、コノワタはなかった。味だけ確認して下げてもらう。
僕はお酒の美味しさはわからないので、リンゴ果汁っぽいのを注いでもらう。少し発酵しているのか炭酸がブクブク出ているけど、リンゴ酒になる前段階なので特に問題ないだろう。
「カニの蒸し物でございます」
おお! 立派なワタリガニを半分にぶった切ったものが皿に乗っている。どうせなら丸ごと一匹でも良かったのに。
卵でパンパンの甲羅を外して、カニ味噌と一緒にすする。残念なのはハサミや脚が全て外されていたことだ。まさか脚の肉は食べないんだろうか?
しまったあ、ついつい綺麗に全部食べてしまった。スタッフの人ごめんよ。
「ハトの炙り焼きでございます」
ハトねえ、まあいいけど。食べてみるとなかなか美味しい。食べやすい部分だけ綺麗に食べて下げてもらう。
「蟲の姿揚げ盛り合わせでございます」
虫キター! 正直一番キツイものがある。勇気を出してサソリを食べてみる。シャクシャクと繊細なスナック菓子のような食感は悪くないけど、微かなエグみが残る。
イナゴは佃煮を食べたことがあるので大丈夫かと思ったけど、異世界物は頭と脚が硬くてイマイチ。セミは肉が多くてなかなかジューシーだけれど、微かな虫臭さは慣れが必要だと思った。
一番美味しかったのはスズメバチ、次点でコオロギかなあ。好奇心で食べてはみたけれど、二度と食べなくてもいいや。
気がつくと周囲の魔族の人達が僕を見ている。
「あれ? マナーとかおかしかったかな?」
「いや、お主が魔族の食事を平然と平らげているので驚いておるのじゃろうて」
ああ、この世界の人間は四つ足しか食べないもんね。テーブルを見渡すと、四つ足こそヤバそうな料理が多いけどな。でかいアルマジロみたいのとか。一口だけなら味わってみたくはあるけど。
「シャコの踊り食いでございます」
蓋つきのボウルで大きなシャコが生きたまま運ばれて来た。魔族達が意地悪そうに見ているな。
シャコはパンチ力が凄いからね。カマキリのような大鎌に注意して一気に頭をもいでしまう。あとはペリペリ殻を剥いてそのまま食べる。僕はシャコはエビより好きなくらいなので、嬉しいサプライズだった。
「生きた黄金ヒトデでございます」
ヒトデは食べたことはないけれど、ウニの親戚筋だからねえ。案の定割ってみるとオレンジ色の立派な卵巣が詰まっていた。黄金というだけあって、特上のバフンウニくらい美味しかった。
「岩牡蠣でございます」
うん、カキだね。ただし超でかい。今度こそ無理だろうとヒソヒソ声が聞こえてくる。
殻付きの生ガキは結構だけれど、普通殻を外して出すよね。やはり何やら試されているようだ。
貝剥きナイフがあれば簡単なんだけど、おならカッターでもいいや。要は貝柱を切ってやればいいんだよ。
デロンと出て来た大粒の身は、一口では頬張りきれないほど。鮮度が高くて味は素晴らしかった。海からは少し距離があるのに、どうやって運んでるんだろうね?
「ガハハ! 異世界からのお客人は大した健啖家であられる。生きたままの牡蠣など魔族でも尻込みする者が多いというのに」
お誕生日席に偉そうに座っていたセーラちゃんのパパらしき人が声をかけてきた。
まあ、牡蠣はアタると大変だからね。
「こちらへ参られよ。今日のとっておきを共に食そうではないか」
おいでおいでをする、嫌な予感がするなあ。
セーラちゃんの隣に腰をおろすと、炭火を入れた七輪っぽいのが運ばれて来た。
金網の上で炙られているのは巨大な白い芋虫……テッポウムシだよ、カミキリの幼虫だ。フランクフルトサイズだよ、成虫はどれだけ大きいんだよ。
「黄金より価値のある蟲だ。ワシはこれに目が無くてのう」
そんなに好きなら一人で食べればいいのに。僕の前にテッポウムシを乗せた皿が置かれる。いい感じに焼けてるなあ、本当にフランクフルトみたいだ。
セーラパパは本当に美味そうに食べている。セーラちゃんも喜んで食べている。
はいはい、食べますよ。どんな味か興味はある。
ん? ふーん? あれ? 美味しい。上品な脂肪の甘さだ。虫臭さはあるけれど、そんなに気にならない。これならまた食べたいかも。トロみたいだね、醤油を一たらしすれば……醤油が欲しい!
「我が妻が無事に戻ったと聞きましたぞ。いや、めでたいですなあ」
バーンと扉を大きく開けて、ドヤドヤと突然の闖入者。セーラちゃんの顔が引きつり、セーラパパが真顔に戻る。
あー、なんとなくわかっちゃったなあ。あの不躾なオッサンがセーラちゃんの婚約者なんだろうな。




