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おなら冷蔵庫

 セーラちゃんは全身全霊で島の生活を満喫している。

 

 僕と結婚するとかなんとか言っていたのは、なんのことはない、婚約者との政略結婚が嫌だっただけみたいだ。

 そりゃあそうだ。彼女に好かれるようなことは特にしていない。恋愛フラグすら立っていない。

 

 まあいい、子供でいられる時間は短いんだ。難しい政治のこととか考えずに遊ばなきゃね。

 

 セーラちゃんが特に熱中しているのがウニ拾いだ。チクチク痛いトゲトゲのウニを、危険を冒して拾うのが楽しいらしい。それに、この島のウニは美味しいしね。

 北海道にいるバフンウニのような高級品じゃなくて、普通のウニっぽいんだけど、海藻をモリモリ食べて身がギッシリ詰まっているから超美味しい。

 生で食べたいけれど、安全のために焼きウニにしている。焼きウニ美味しいけどね、味が濃厚で。

 

「ウニの肉は不思議な味ですね。カキにちょっと似ているかしら。貝? ウニは貝なの?」

 

「そのオレンジ色のはウニの卵なんだ」

 

 精巣も混じっているけれど、それは言わないでおく。いろいろ微妙なお年頃だからね。

 

「あら、それで卵色をしているのね。子供はカキとか嫌いだけど、私はもう大人だからカキの味がわかるの。だからウニも好き」

 

 ウニとカキってそんなに味が似てるかな? どっちも磯臭いけど、方向性が違うと思う。

 

「オサム様はカニの脚ばかりなのですね。カニ味噌が大人の味なのに」

 

「カニ味噌が美味しいカニは、この辺りにはいないんだ。あっちの大陸にはいるのかな?」

 

「なるほど、種類が違いますね。美味しいカニは絵で説明するとこんな感じです」

 

 セーラちゃんが石で地面に原寸大と思われるカニを描いていく。落書きかと思いきや、天才的に絵が上手い。紙に描いてもらえば良かった。うわあ、勿体無い。

 

「ズワイガニにワタリガニ、これは多分ケガニかなあ」

 

 ああ、ワタリガニだったら海釣りでたまに釣れたりするし、この辺にもいるかもしれないな。狙って釣るなら専用の仕掛けがあるんだけど、当然異世界じゃ売っていない。

 うーん、上空からドライアイスの銛で狙い撃ちしてみるか?

 

 ふわりと飛び上がって沖に向かう。

 後ろでセーラちゃんがズルいとか叫んでいる。ワタリガニ漁について来たかったようだ。なんか独特の感性で面白い子だ。

 

 この辺りの海は透明度が高いので、水面近くを泳いでいる魚が上空から良く見える。やつらは意外に空を警戒していて、影を落としたら素早く潜ってしまう。太陽の位置には注意しないと。

 

 ウミガメは泳いでいるけど、ワタリガニは見当たらない。そういえば奴らは夜行性だったよ。

 代わりになんか凄いのを見つけてしまった。

 

 海鳥の大群が蚊柱のように飛び回っている。カモメよりもっとデカイ鳥だ。焼き鳥にすれば食べ応えはありそうだけれど、それより海の中が気になる。

 鳥達が水中にダイブしているから、多分魚の群れがいる。

 

 僕も海鳥になったつもりで海中を見下ろす。バシャバシャとすごいことになっているけど、よく見ればいるな。というか、水より魚の方が多いくらいだ。イワシかな? イワシも新鮮だと美味しいな。

 

 どうやって捕ろうかと思案していると、デカイ魚影が小魚を呑み込み始めた。カツオかマグロか異世界モンスターか。なんでもいいや、大きい方が狙い易い。

 

 インベントリからリトルバズを取り出し、ドライアイスの槍をぶっ放す。外れた。

 あれ? なかなか当たらないぞ。あれだけ魚がいれば当たりそうなものなのに。

 

 幸い、大きい魚達は食べるのに夢中で逃げたりしない。多分、ダイブしていく海鳥みたいなものだと思ってるんだ。

 思い切って海面スレスレまで高度を落とし、巨大な魚と並走しながら慎重に狙いをつける。

 

 何度も何度もトライアンドエラー。コツが分かって来たところでチャンスが来た。ドキドキしながら引き金を引く。当たった!

 

 確かに仕留めたのだけれど浮いて来ない。むしろ沈んでいる? 待て僕の獲物!

 水中にダイブして、巨大魚を引き上げようとしたけど無理だ。僕の身長の倍ほどある。マグロかな?

 

 おならコントロールで口からガスを送り込んで膨らませる。水上に浮かべばこっちのものだ。とりついてガス噴射。流線形の魚体を活かしてどんどん加速する。舵が無いから方向がなかなか安定しないけど、とにかく島まで持って帰ろう。今日はマグロのお刺身だ! アニサキスとかっているんだろうか? 冷凍にすれば大丈夫だよね? どちみちこんなデカイの冷凍にするしかないし。

 

 魔族は食のタブーとかないみたいで、セーラちゃんは何でも食べる。お刺身も大丈夫だろう。

 山葵と醤油がないのは残念だけれど、ショウガがあるしお酢もある。まあ、多分、美味しいよ!

 

 島が見えて来た。あともう少しだ。

 

 突然、背筋が寒くなった。海の底から何か大きいものが近づいてくる!

 慌てて上空に飛び上がる。

 

 なんだあれ? 巨大な口が僕のマグロをガブッと食べてしまった。オノレ! 許さん!!

 リトルバズの連射をくらえ! 食べ物の恨みは恐ろしいぞ!!

 

 十発以上命中させても、致命傷には程遠いようだ。怒ったそいつは僕に襲い掛かってきた。何? 蛇?

 まさか空中に伸びて来るとは予想外だよ。こうなったら自重はなしだ。

 

 くらえ! 必殺! おなら気化爆弾!!

 

 

 おなら気化爆弾の威力は凄い。ただし、おならバリアーで防げる程度に加減してやらないと僕が自滅する。

 

 おかげで怪物は命拾いしたようだな。戦意を喪失して海中に逃げて行った。

 

 あ、一口齧られた僕のマグロが浮いている。可食部は半分くらいになってしまったけど、まあいいか。

 

 

「うわあ、大きなお魚! こんなの私初めて見ます!」

 

「それよりこの巨大な歯型はなんじゃ! お主まさか大ウミヘビの上前をはねたんじゃなかろうな!」

 

 あいつ大ウミヘビって言うのか。

 

「あいつが悪いんですよ。僕のマグロを盗もうとしたんで、お灸をすえてやりました」

 

「海から雷のような音がしとったが……お前、無茶苦茶だのう」

 

「そんなことよりマグロ解体ショーです」

 

 まずは大ウミヘビに齧られた部分をおならカッターで切り落とします。歯に毒やばい菌がついていたらまずいので、勿体無いけど大き目にカットします。

 頭の部分を持っていかれたので、カマとか美味しい部分がほとんどなくなっちゃいました。大ウミヘビへの憎しみがふつふつと再燃してきたよ。

 

 気を取り直して、残った可食部をサクっとサクにして、大理石をくりぬいた小部屋の中にドライアイスと交互に詰めていきます。

 最後に骨に残った中落ちを、木のスプーンでこそげ落としていきます。

 

「それ私もやる! やりたい! やらせてください!」

 

 わかる。結構楽しいもん。ただ、量が多過ぎ。大きな甕に何杯もとれてしまった。

 冷凍しておけばいいけれど、ヤバイ量だ。

 

 骨とかもスープの出汁にできるんだけど、今回は肥料にしてしまおう。

 

 

 とりあえずは新鮮な中落ちを使った一品を作るよ。マヨネーズが欲しいところだけれど、贅沢は言わずに酢と植物油を混ぜて、塩とおろし生姜で味をととのえます。

 凄く適当だけど、男の手料理という免罪符があるので。

 

「マグロの和風カルパッチョ風シェフの気まぐれ料理風です」

 

「美味しい美味しい。大人の味ね」

 

 セーラちゃんが喜んで食べてくれる。なんかたまたまマヨっぽい感じに成功した。酢と油ってなかなかいいと思う。

 

「美味しいけど大人かなあ? きっとマグロがいいんだね。本当にマグロなんだろうか?」

 

 本物のマグロは熟成させた方が美味しいとか聞いたことがあるし。でもやり方がわからないから危険だ。僕がやれば多分腐る。

 

「食事なんぞ面倒なだけと思っとったが、儂って人生損してなかろうか?」

 

 グラさんが羨ましそうにしている。セーラちゃんは本当に美味しそうに食べるからね。

 それはいいんだけど、百キロ以上の冷凍マグロをどうやって消費しようか? 多分、三日で飽きるね。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 目玉、ほほ肉、カマトロが消えてしまった。おのれ大ウミヘビ! [一言] ウニ、カニ、マグロ… 明日デパ地下行こう…
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