通りすがりのヒーロー見参
あ、落ちた。仕方ないなあ。
おならバリアーを解除して、落下する女の子を空中キャッチ。なんだ? 思ったよりちみっちゃいぞ。中学生くらい? まさか小学生じゃないよな。
「はなしてっ! はなせっ!」
「え? うん」
大暴れするので思わず放してしまう。子供って手加減を知らないよね。親戚のチビどもも容赦なく飛び掛かって来るので、遊んでやるのも大変だった。
「キャーッ!!」
どこからあんな声出るんだ? やっぱ落ちるのは怖いんじゃないか。
再び空中キャッチ。
「え? どうなって? 高い! 空飛んでる!」
「君はお礼とか言えない子かな? 一応助けたつもりなんだけど」
「え? あの、ユドリア卿の手の者ではないのですか?」
「ドリアン? 誰なのそれ? 僕は通りすがりの旅の者だよ」
「え? おかしいですよ? 旅人は空を飛びませんよ?」
若いのに頭の固い子だな。
「それでどうするの? あの船に戻りたい?」
「それは駄目です。ユドリアの部下じゃないなら、あなたも殺されますよ」
「だから誰それ? 海賊の親分?」
「ご存じない? あなた一体? もしかして人間?」
「失礼な。もしかしなくても人間だよ」
「嘘よ。だって人間は魔族を見たら怖がるはずよ」
「魔族なんて見たことないよ」
「私魔族よ。頭の角が目に入らない?」
角ねえ。なんか石ころのような小さな角が二本生えている。頭ぐりぐり攻撃されたら痛いだろうな。小さい子はなんであんなに頭突きが好きなんだろう? さすがにこのくらい大きな女の子だと恥ずかしがってやらないか。でも早苗叔母さんとこのミズキちゃんは中学生にもなってまだ遠慮なく突進してくるしなあ。
懐かしい。何もかもみな懐かしい。
「ねえ、怖くないの? 私の角」
むしろなんで怖い? 見た目ならグラさんの方がずっと怖いよ。
いかん、なんかちょっとツボった。笑うとおならが不安定になってしまう。腹筋が……
「どうして笑うんですか! 失礼な!」
だって、そりゃあねえ。言葉で説明するよりグラさんを見せた方が早そうだ。
「それで魔族の娘を連れて来たのか? 大海を越えて? お主馬鹿じゃろ?」
「だって、この子の言うことがイマイチ意味不明なんで。魔族のグラさんなら話も通じるかなって」
「あの、人族のリッチは魔族じゃないと思います」
「え? 儂って魔族じゃないの?」
駄目だ。グラさんは魔族事情には詳しくなかった。
それでも女の子はだいぶ落ち着いて話せるようになった。やはり陸地を踏んで安心したのだろう。
骸骨なグラさんを見ても落ち着いているのはさすが魔族と言わざるを得ない。
偽名でセーラと名乗った彼女は、わりといいとこのお嬢様らしい。わりといいとこの婚約者のところに船でお輿入れの途中、悪漢の手下の海賊に襲撃されたそうだ。
「そういうことなら、今すぐ君のおうちまで送って行ってあげよう。あー、でもどの辺かわからないなあ。目印になるような山とか川とかあるといいんだけど」
「命知らずですね。見つかれば人間は殺されますよ」
「えー、そうなのグラさん?」
「ありそうな話ではある。人間も魔族を見つければ殺すからのう。儂も姿を見られればヤバイのじゃよ。魔族じゃないのにのう」
野蛮だなあ。まあ、地球の人間が言えた義理じゃないけど。
「というわけで通りすがりの旅人さん、責任取ってくださいね」
え? 何それ? いろいろ誤解を招く表現だよ。
「仕方ないなあ。なんとかこっそり家まで送り届けてあげるよ」
「違うでしょ、もう。リッチさん、この鈍い人に責任の取り方を教えてあげてくださいな」
「うむ、いいとこのお嬢さんを傷ものにしたんじゃ、夫婦になれ。幸いお主はまだ独り身、問題はなかろう」
「いや、誤解ですよ。僕は何もしてないですよ」
僕は断じてロリコンではない。断じてだ!
「やんごとなき姫君は、侍女が目を離しただけで純潔を疑われるのじゃよ」
何それ! いつの時代だよ! ああ、でも異世界だしなあ。
「いや、いやいやいや。だって仕方ないじゃないですか。人助けなんだから」
「姫を助けた若者は、身分違いでも結ばれるじゃないですか。人間の世界にはそういう御伽噺はないんですか?」
「いや、沢山あるけど。あれってそんな意味だったのか!」
なんか御伽噺が生々しいんですけど。そもそもフィクションじゃないか。フィクションだよね?
「あー、えーと。身分の違いはともかく、人間と魔族じゃ結ばれぬ恋ですよね? グラさん?」
「いや、双方の勢力圏の外であれば問題あるまい。結構いるんじゃないかのう? オサムであればどこでも好きな場所に飛んでいけるしのう」
「でもほら、僕はこの世界の人間じゃない訳だし、全部リセットしちゃう訳だし」
「あら、オサム様は召喚されし異世界人でしたの? それならば話は違いますわ」
ふう、良かった。分かってくれたか。異世界人は結婚相手にはならないらしい。あっさり嫌われてちょっと寂しい気もするが、これでよかったんだ。
「異世界の人であれば、婿養子で魔族になれますもの。大手を振って帰れますわ」
無邪気に微笑むセーラちゃん。ちびっこなのに恐ろしい子!




