並行世界大戦
青空に三本の飛行機雲がぐんぐん伸びていく。あれは多分、敵だ。
廃墟の瓦礫の影に身を隠す。敵は三人、三人とも僕だ。
まともに戦えば勝ち目は無い。頼む、気づかないで飛び去ってくれ。
僕は僕を殺したくないんだ。でも、たまに好戦的な僕もいる。僕を慕ってくれるセーラちゃんのためにも、僕は負ける訳にはいかないんだ。
どうしてこうなった?
きっかけは些細なことだった。きのこたけのこ戦争? カレーハヤシ戦争? いや、プリンババロア戦争だったかもしれない。
並行世界を自由に行き来できる手段が確立し交流が始まった結果、大きく二つの派閥に分かれてしまった。最高戦力であった僕は、当然のように戦争に駆り出されたのだ。
須田の存在する世界もあったが、大した戦力にはならなかった。魂ごと一気に焼き払ってやればいいだけだった。むしろ厄介なのが赤松で、敵の赤松は見つけ次第真っ先に倒さなくてはならない。もう嫌だこんな戦い!
それでも僕達は平和を求めて頑張って戦ったんだ。だけど上層部は戦争を続けたがっている。そして上層部の構成員も僕なんだ。いつの間にか並行世界の僕が何百人もつるんで組織を作り、支配体制を確立していたんだ。
相手も僕だというのに話がまるで通じない。戦えば最大火力での応酬になる。いくつもの世界がおならの業火に焼かれて滅んでしまった。
おならの力が悪いのか? 力が無ければ奪われるだけだ。だから強くなりたかったんだ。
自分と仲間達を守るだけの力が欲しかったんだ。過ぎたる力は身を亡ぼす? いや、敵も僕なんだし力は互角だし。
力の正しい使い方を学んで来なかった? 相手を殺さない程度の喧嘩で経験を重ねておけば良かったんだろうか? わからない。
人間の醜い部分から目を逸らしてきたツケ? だって、普通そんなもの見たくないだろう。
もはや自分の元居た世界もわからない。守りたい人の生死すら。
ただ生き延びるために、襲ってくる僕を倒すのみ。殺すことに迷いは無くなった。だからこそまだ生きている。
攻撃を一瞬躊躇した僕は、きっと僕より善良な人間だったのだろう。だから僕は今日も生き延びた。
無数に存在する並行世界の僕達の中でも、僕は相当な悪人に違いない。
視界に入る全ての敵を掃討し、油断があった。全身を炎に焼き尽くされる。苦しいのは一瞬だった。僕は死んだ。
味方の誤射か、それとも裏切りか。死者にとってはもうどうでもいいことだ。
もしも願いが叶うなら……
「という夢を見たのさ」
「夢で良かったですね」
平和な草原で寝転がっている僕。セーラちゃんがイナゴを追いかけている。捕らえた獲物は草の茎に串刺しにしていっている。平和? 平和ってなんだろうな? イナゴは今夜のおかずかな?
「本当に夢? 吉田さんには並行世界のプリンは諦めてもらわないと」
「そうだね。杞憂であっても、プリンのためにリスクを冒せない」
思い出すと震えが止まらない。リアルな夢だった。あんな未来は絶対駄目だ。
セーラちゃんが駆け寄って来て隣に腰を下ろす。
ゴロゴロ転がって来て、ぴとっと汗ばんだ頭をくっつけてくる。草の匂い、太陽の匂い、イナゴの匂い?
「ここは天国ですよ。毎日お腹いっぱい食べられて、倉にはお米が積みあがってます。甘いおやつまで食べられます」
「イナゴの佃煮も美味しいしね」
「これ以上何もいりません。だから」
足るを知るか。鎖国もいいかもね。とにかく並行世界は駄目だ。あれはヤバイ。
「こうして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ?」
セーラちゃんが膝枕して、僕の頭を撫でてくれる。
「うん、いいね。めでたしめでたしだ」
あの悪夢に比べれば、まさにハッピーエンドだ。
髪に彼女の優しい手のひらを感じながら、僕の意識はまどろみの中に深く沈んでいった。




