オークは食べ物ですか?
運河の近くの小さな酒場? 小料理屋? 客層は労働者の棟梁クラスがメインで、底辺よりちょっと上くらい? ワニ肉料理が中心で、さすがに丸イモは出てこない。炭水化物としては蕎麦っぽい麺料理? ベトナム料理のフォーに似ているけど、使われている香辛料はニンニクとショウガのみで気に入りました。
お腹いっぱい食べて銅貨三枚くらいだから、煮た丸イモだけ出すような店と比べてもコスパがいいと思う。もう少しお高い店だと変な香辛料を多用してくるので僕の口には合わない。
どうもワニの肉は亀肉より安物の位置づけらしい。亀肉にもグレードがあって、最高級がスッポンによく似た泥亀、次点がウミガメで、以下リクガメ、川亀って感じだな。
スッポンは美味しいんだけどね。ショウガとネギと塩以外使わないでって特注しないと、カメムシ風味の香辛料マシマシで出て来るんだよ。
まあ、ワニ肉も悪くない。よく鶏肉に似ているとか言われるけど、ワニ肉はワニ肉だ。特にこの店の味付けは僕好みなんで、最近は外食する時は良く飛んでくる。アフターバーナー全開だとグラさんの島から十分もかからない。
その男は明らかに周囲から浮いていた。薄汚れた金属製の全身鎧を着てこんな店に来る奴は普通いないからね。鎧のデザインは僕のとそう変わらない。僕も周囲から変な奴だと思われていたんだろうな。昔の自分を思い出すと恥ずかしいよ。ほんの数日前の話だけれど。
ただ、僕は常にヘルメットをしていた。十字の細いスリットが入った奴だから顔は見られなかった。
でも柴田君は帽子すら被らず、日に焼けた平たい顔を周囲に晒している。この世界には平たい顔族も珍しくないから別にいいんだけどね。平たい顔族の方がどちらかといえば色白なので有色人種扱いはされていないみたいだけれど、見た目が違えばつまらない差別はある。戦争に負けた側が差別されるんだけど、いろんな国が勝ったり負けたりしているからどっちが上とかは特に決まっていないようだ。
柴田君は周囲からジロジロ見られて緊張していたが、しばらくして僕に気づいたみたいだ。ガン見してくるのを無視して、熱いワニソバを楽しむ。
友人という程の仲でもない。彼は地味な優等生タイプで……それくらいしか知らないな。体育会系のクラブに入っていたと思うけど、鎧を着てるってことは騎士系のジョブになったんだろうか?
背中に短めのロングソードを背負っている。短いのにロングって矛盾してない? 一人でニマニマしながらゆっくり料理を楽しんでいると、柴田君が立ち上がった。早っ、凄い早食いだ。
「見慣れない銅貨だな。地金の質は良さそうだし、ま、いいか」
柴田君は十円玉で支払ったようだ。ワニソバ一杯十円かあ、日本でも百円ラーメンはあったけれど、十円は凄く安いね? この店のはワニ肉が結構入ってるし。
僕はさらに骨付きワニ肉のニンニクグリルを堪能し、店を出た。
「三井寺! お前三井寺だろ! 生きてたのか!」
うわあ、柴田君が出待ちしてたよ。暇なのかな? それとも新たな刺客か? 僕は戦わないよ。気絶させてその辺にポイだ。あー、それだと通行人に身ぐるみはがされて殺されちゃうな。
「なんでだよ? 人探しの魔法に見つからない方法があるのか? なら教えてくれ! 俺も奴らから逃げてきたんだ」
話があるとかで、町外れの神殿まで連れて行かれる。
「古い建物の中にいれば吉田の目からは逃れられる。お前がまだ生きてるとしたら、そういう場所に引き籠ってるとばかり思ってたんだけど」
「吉田ってフ女子の吉田さん? 人探しの魔法が使えるの?」
「ああ、あと先生が使えるらしいけど、勇者派じゃないから。聖女の鈴木さんは目玉の使い魔が使えるけど、そいつはもう倒した」
「それで? 何故追われているの?」
「聞いてくれ三井寺! しょうもないオナラ男のお前ならわかってくれる筈だ。いや、いい意味でハズレジョブ? みたいな?」
柴田君はコミュニケーション能力に難があるよね。悪気はなかったにせよ、僕の好感度はマイナス50だよ。
空気を読まずに柴田君が語った内容は、自分がアークナイトという激レアジョブだったこと。期待されて厳しい訓練を受けたこと。ダンジョンでオークを狩らされたこと。等々、要するに自分の武勇伝?
情報収集のためだと割り切って聞き上手に徹する。若い、若いなあ。グラさんも多分、こんな気持ちで僕の話を聞いてくれてるんだな。
「三井寺はオークって知ってるか? ブタ顔のモンスターだと言われているけど、少し鼻ぺちゃな美形だ。スタイルだって完璧なんだ! ボンキュッボン? セクシーダイナマイト? なんか昔からそう言うだろ? 知能だって人間並みに高いんだ。この世界の連中とは言葉が通じないから駆除対象にされているだけなんだ!」
やけにオークの肩を持つと思ったら、女オークに一目惚れしたらしい。
別にいいと思うよ、美的感覚は人それぞれだし。僕はグラさんの見た目は気持ち悪いと思うけど仲良くしてるし。人間、見た目より中身だよね。
「でも、結局オークは狩られてしまって。俺は将来を誓い合った女性をトンカツにして食べてしまった……」
オークのトンカツは異世界物じゃ定番だけど、それはさすがに駄目だろう。
「いや、この世界の聖典には四つ足しか食べちゃ駄目って書いてあるんだよ?」
「だから奴らはオーク達を四つん這いにさせて首を跳ねたんだ! 俺はそれをただ見ていることしかできなかった」
細かい状況はわからない。惚れた相手なら命懸けで守れよと言いたいけれど、僕もいざ戦いとなると頭が良く回らなかった。
敵を攻撃するのは簡単だけれど、誰かを守ろうとするなら日頃からしっかり考えておかないと無理かもしれない。咄嗟に体が動くのは、家族を守ろうとする時くらいじゃないかな。
「一晩考えてさ、彼女の敵討ちをしたんだ。夜明け前に俺にオークを食わせた兵隊を皆殺しにしてやった。奴らの方がモンスターだよな? 俺はどこか遠くのオークの国でオークハーレムを作るんだ。魔王に寝返ってもいい。一緒に来ないか? オーク娘はいいぞ!」
「いや、僕は日本に帰るから」
「魔王を倒せば帰れるって話な。あれ嘘だから」
「それは知ってる。帰る方法は他にもあるんだよ」
「ふーん、まあいいや。なら人探しの魔法に見つからない方法を教えてくれ」
何故、教えられて当然って思ってるんだろう?
「古い建物を上手く利用して、追っ手より速く移動するんだ」
「なんだ。俺と同じじゃないか。なら金貸してくれよ、十円玉以外使えなくて困ってんだ」
図々しいなあ。働いて金を稼いでみろと言いたいけれど、一文無しになれば強盗を始めるのは目に見えている。リセットするまでできるだけ罪は重ねないで欲しい。
「なら両替えしてあげるよ、銅貨一枚十円として」
「そんなのぼったくりじゃないか。足元見やがって……この際仕方ないか」
わかってないなあと思いつつ、千円札と五百円玉を銀貨と銅貨に交換してやる。銀貨の計算は難しいので、銅貨約十六枚分の価値のある小粒銀貨に統一しておいた。銅貨150枚分、贅沢しなければしばらく食いつなげる筈だ。
この世界じゃ十四歳にもなれば子供じゃないんだから、後は自分でなんとかするんだね。




