巨人の遺産
「巨人の時代の遺跡じゃな。この辺りの島々には珍しくない」
巨人と聞くとファンタジーっぽい廃墟に見えて来るから不思議だ。
いや待てよ、巨人…タイタン族…チィターンズ。
「うわあ、宇宙世紀の秘密基地にしか見えなくなったよ」
「何を言っとる。ホレ、状態のいい鱗がより取り見取りじゃ」
「いや、竜の化石の配置がハンガーでメンテ中の戦闘機っぽくないですかコレ?」
「肉が残っとるな。化石というより干物じゃのう。竜の肉って食えるんじゃろか?」
「グラさん食事しないでしょ? というかミイラが共食いするみたいで嫌だ」
「鱗が剥がれないんじゃが。うーむ、一度腐らせないと駄目か」
「ちょっと来てください」
奥は暗くて怖い。密閉空間でおならファイアーを照明に使うのはヤバそうなので、グラさんについて来てもらう。
そして見つけてしまった。とびっきりヤバそうなものを。
「なんじゃこれは、置物か?」
グラさんが珍しそうに顔を映して喜んでいるのは、ツルツルのドラゴンの骨格。そう、何かで磨いたようにツルツル。多分新品。
「これ絶対ヤバイ奴ですよ。うわあ、起動させたら復活するんじゃないかな?」
「また訳の分からんことを。言葉として矛盾しとるぞ。うん? なんじゃこの紐は?」
「切っちゃだめですよ。それ多分へその緒みたいなものです」
「するとこれは竜の胎盤? 竜って卵生じゃと思っとった」
「いやいやいや、どう見ても生物じゃないでしょ、メカですよメカ。ナマモノっぽいですけど」
グラさんは聞いちゃいない。新しいオモチャを貰った子供みたいに夢中で調べている。
マズいな。僕の用事を放り出してこれで遊びかねないぞ。クラスメイト達が馬鹿なことをしでかす前に、リセットボタンを押さなきゃならないのに。
リセットできるなら、最後の最後に全てなかったことにして、めでたしめでたしチャンチャン。なんてことも当然考えた。蠱毒の儀式の完成直前なら、世界全体を巻き戻す程度の奇跡は起こせるらしいから。
でも、グラさんによれば、一度起きたことは世界に刻まれてしまう。リセットしてもそれは消せないらしい。
善行も悪行も、たとえ誰が見ていなくても、全ては記録されているのだそうだ。皇帝の栄華もカゲロウの一生も、平等に全て世界は覚えているのだという。
過去を見る魔法を使えば、その世界の記憶を覗けるのだそうだ。だから一瞬を大事に生きろと、最後はお説教じみたことを偉そうに言っていた。
まあ、半分くらいなんとなく理解できた。僕が小川を殺した罪は、全てを巻き戻して小川が生き返ったとしても消えないってことだな。そこは感覚的にわかってしまう。僕が忘れてしまっても、魂の底に刻まれて残るんだろうな。理不尽だ。
異世界では罪の概念が根本的に違うんだ。日本では法と裁判官が罪を決めるけれど、こっちでは生き方そのもので罪が世界に、魂に刻まれていく。特に罰はないけど、これが結構キツイよ。何しろ償うことすらできないんだ。免罪符も時効も存在しない。死んでも逃げられない。魂に傷が多いとなんか輪廻転生にペナルティがつくらしい。つまりこの世界でループものはヤバいってことだね。
はっちゃけたクラスメイト達がこれ以上やらかさないうちに、店じまいさせてしまわなければ。いや、他人の心配なんてしている場合ではない。
「あー、こっちが本体じゃったか」
グラさんがドラゴンの骨格標本を弄るのをやめて、周辺の制御装置に手を出し始めた。目を離すと駄目な人だ。油断も隙もない。
操作方法とかわかるのだろうか? ただ壊すならいいんだけれど、爆発させたり暴走させたりは勘弁して。
僕がここで死んでしまったら、蠱毒の儀式を邪魔する者がいなくなってしまう。
つまりクラスメイト全滅のバッドエンドだ。
「わかる! わかるぞ! なかなかに論理的なのじゃ!」
ローブ姿の骸骨が、嬉々としてコンソールの周囲を踊り回っている。パイロットランプっぽいのが瞬き始め、なかなかにシュールだ。
ドクン、と何かの鼓動が聞こえた気がした。
「グラさん! ドラゴンが復活するの? させたの?」
「正しくは復活ではないな。起動じゃ。オサムの言うようにこいつは機械の一種じゃった。相当強力な兵器じゃよ」
「うわあ、世界を滅ぼす奴きたあ!」
「いや、一匹だけではそこまでは無理じゃろうて。それに完成はさせぬ。もったいないがここで朽ち果てて貰う」
「え?」
「これも何かの縁じゃ。引導を渡すくらいはしてやらんとな」
「グラさんそれ正解というか最適解。でも物語が始まりすらしないうちに一件落着しちゃうよ」
「英雄譚の当事者になるのはまっぴらじゃし。儂は穏やかに生きたいんじゃ」
わりと利己的な動機だった。
ドラゴンは蘇ることなく崩れ去り、誰も知らないところでスピーディーにこの世界は救われた。
見た目は骸骨なのに、やってることは聖者も顔負けだな。称えられることも感謝されることもないのだけれど。
せめて僕だけでも少しは褒めてあげようか。




