天気はいいけど波は荒い
大海原を小舟で漕ぎ進む。
高気圧が出張って来ているせいで気持ちの良い青空が広がっているけれど、うねりは結構ある。
本来、外洋向けの大型船でないと航行は危険だ。けどまあ、いざって時はおならで空飛べるので。
小舟は最寄りの漁村で安く買えた。穴も空いてたからなあ。赤松が結界で塞ぐから問題はなかった。
オールは和船の櫓みたいなタイプで船尾についていた。最初は面白がって赤松と吉田と三人で交代で漕いでみたが、全然進まないのですぐに飽きた。
「帆船って大発明だよね。漕がずに済むもんね」
「あれって結構人手がいるからねえ。人件費とか大変だよ」
帆船にはいい思い出が無い。
「でも、一人用のヨットとかあるんでしょ?」
「ガレー船に比べれば船員は少ないんじゃ?」
なるほど、確かにそうだ。この世界のガレー船はガッツリ帆走もできるタイプだけれど。
「そのガレー船っぽいのが追いかけて来てるんだけど。さっきの漁村の船だよね」
「私達を心配して見に来た? 訳ないか。沈むの待ってる? 沈まなきゃ沈める気っぽいよ」
ガレー船というより、ガレオン船にいっぱいオールをつけたみたいな船だ。向かい風なのでそんなに速くない。
船首のバリスタみたいのでこっちを狙ってるけど、赤松の結界を貫ける訳が無い。
「よし、ミー君、焼き払え!」
「ダメダメ。僕らには脅威でも何でもないだろ? あんな船でも百人は乗ってるよ」
「海賊を生かしておけば、罪の無い人々が苦しみますよ」
「わかるけど、この世界の船乗りって大半が海賊予備軍だからなあ。ただ沈めるんじゃなくて、港で晒し首にしないと抑止効果はあまり無いと思う」
「じゃあ、撃って来たら八割殺しでよろしくね」
吉田が難しいことを言う。
木の杭みたいな弾体が射出され、赤松の結界に弾かれた。見た目はオンボロ兵器なのに、なかなかやるよね。
仕方ないなあ。海面にメタンガスを吹き付けて点火。ここはあえて酸素は使わない。
海水で湿っている木材は簡単には燃えないと思っていたけれど、帆に火がついたら一瞬だった。
慌ててガスを止めたけれど、火の回りは早く、喫水線まで焼け落ちてしまった。
「ミー君やり過ぎ」
「酷いことするなあ」
おいおい、手加減って難しいんだ。本気で生け捕りにしたければ赤松の結界の方が向いている。
死んだときにも思ったんだけれど、最近は皆がナチュラルに強者の思考をするようになってる。
赤松は強者と言えるけれど、プリン吉田まで。この傾向は果たしていいことなのだろうか?
「ああっ、急がないと聖女鈴木との会談時間に遅れるわよ」
「飛んで行けばトラブルは無かったのに。どうせミー君が空を飛べることはバレてるんだし」
そうだよ、そもそも秘密会議を持ちかけてきた鈴木が悪い。
「知識として知ってるのと、実際に目で見るのは違うだろ」
適当にそれっぽいことを口にしてみる。言ってるうちに本当に深い考えあっての行動に思えてくるから不思議だ。
「確かに、あいつ須田君より性格悪いもんね。禄でもないこと企んでそう」
「あたしの結界に、予想外の弱点とかあったらどうしよう?」
チートで無敵な能力といえども、対策されてしまうと案外脆いこともある。今回メンバーにプリン吉田を選んだのも、その辺を期待してのことだ。あと、鈴木と吉田は仲が良かった筈だし。二人とも腹グロキャラだけれど、安っぽくない中ボス的な感じ? 守るべき一線というか、仁義は通すみたいな?
……このまま会わずに帰っちゃ駄目かなあ。




