鱗集め
「鱗! もっと鱗が欲しいのじゃ!」
竜の鱗に魔法陣っぽいのを刻む? 焼き付ける? その作業は難しいみたいで、グラさんは失敗ばかりしている。
「これは非常に高度な作業なんじゃ! 並みの魔導士であれば、初級魔法の術式であっても百回に九十九回は失敗するんじゃ!」
イライラしてる。凄くイライラしてる。僕には応援しかできないけど頑張って。
「歩留まりは悪くても、成功したパーツだけ切り貼りしていけば、そのうち完成する理屈なんですよね?」
「さよう。鱗さえ存分にあれば、儂なら出来る筈なのじゃ……理論的には」
「マッドサイエンティストって、みんなそう言うんだよね」
「まっどさいえんてぃすと? 言葉の意味は抽象的じゃが、なんかよいのう。よし、気に入った」
グラさんは気を取り直して作業を再開するも、竜の鱗のストックが尽きてしまった。
「これって、熱で溶かして再利用とかできないんですかね?」
「そんなもん、できれば誰かがとうの昔にやっとるわい」
「そんなこと、やってみないとわからないでしょうが」
グラさんの失敗作をおならファイアーで軽く炙る。びっしりと刻印されていたパターンが溶け、一見新品同様に再生できた。
「むむむ、やはり駄目じゃな。魔力の通りにムラがあり過ぎる」
よく見ると鱗の中にキラキラと輝く魔法陣の破片みたいなのが散らばっている。宝石のオパールみたいで綺麗だ。
「なるほどね。再利用しようとすると不純物が混ざるのか。この状態だと耐熱素材としての性能はどうなんでしょうね?」
「面白い、試してみるか。いや、お前なあ。寄り道ばかりしていては時間がいくらあっても足りんぞ。儂のように不死者となるか?」
寄り道は駄目だよね。グラさんも自分の欠点にちゃんと自覚はあるようだ。
僕の勘だと、火加減とかをいい感じに工夫すれば再生できると思う。だけど竜の化石はいくらでも転がってるんだ。素直に鱗を拾い集めに行く方が早いというものだ。
鎧を装着して近くの島までひとっ飛び。空を飛べばほんの一瞬だ。鎧を着るのにかかった時間の方が長かった。
グラさんの島より十倍は広い。竜の化石も十倍くらいありそうだ。
「げ、鱗が一枚もない」
「儂違う。この島に来るのは初めてなんじゃ。業突く張りの商人どもの仕業じゃろうて」
「まあ、有限な資源ですからね。今のうちに集めて抱え込んでおけば、そのうち間違いなく値段は上がるでしょうし」
「悪魔のような所業じゃ」
グラさんが髑髏顔でそう言うのが妙に可笑しい。プププ笑ってはいけないな。
「別の場所を探しますか? 手つかずの化石はまだまだいくらでもありそうですし」
「いや、この島にもまだ大量に残っとるぞ。気配はこっちじゃ」
グラさんには鱗の気配までわかるらしい。器用貧乏よりの完璧超人だね。
海沿いの切り立った崖の前でグラさんの姿がスッと消えてしまう。壁抜けしたのかな?
「地下の穴倉に化石があったぞ。中の空気が悪いが、お前さんの風の魔法なら大丈夫じゃろう」
ああ、中は酸欠なんだね。呼吸用のおならで顔面を覆うと、いきなり周囲が真っ暗になった。
グラさんに引っ張られたんだろうけど……ちょっと心臓に悪い。ここ数日で心臓に毛が生えて来た自覚はあるけれど。
グラさんの掲げる杖の先から白い光が周囲を照らす。
「え、なんだここ」
自然の洞窟を想像してたんだけど、明らかに人工的な。まるで宇宙空母の格納庫だ。
ファンタジー異世界だと思ってたらスペースオペラだった?
こういうの困るよ。せっかく戻れる算段がつきそうな雰囲気だったのに。




