ただいまグラさん
「グラさーん。僕やったよ」
空島に戻るなり、グラさんの神殿に駆け込んだ。
『うむ、いろいろ大変だったのう』
そのまましばらく黙りこむ。どうせ神様は全て見ていたんだろう、わざわざ言葉で報告しなくてもいいか。
「勇者は魔王の封印を解いたりできませんよね?」
少し気になることを聞いてみる。この手の封印は解けるのがお約束だ。普通は魔王が封印されるんだけれど。
『放っといても時間で解けるぞ。定期的に封印しなおすのがお勧めじゃ』
「やっぱり数百年ももたないかあ。あの魔王さんちょっと頼りなかったしなあ」
『一年も持たんかものう。あの魔王は実に頼りない』
魔王さん思ったより駄目だった。でもこれで、子孫に使命を託すパターンは無くなったな。封印が解けた魔王を勇者の血を引く者が倒すのは良くあること、逆はあまり聞かない。もう須田が魔王ってことでいい気もする。
「あの、そういえば、不死身の勇者って老衰で死にますか?」
『そう、それじゃ。不死身と言ってもいろいろあるからのう。最悪あいつはずっといる』
「うわあ、酷い。召喚チートって、やっぱり神様が与えてるんですよね?」
『そこが微妙なとこなんじゃよ。当初は目的を持って力を与えた神々がおった筈じゃが、そのまま放置されとる。飽きてしまったんじゃろうな。今となっては力の残滓が働き続けているだけなんじゃが、いろいろ変質しとるからなあ』
教訓、後始末は忘れないうちにきちんとしよう。
『儂が言えた義理ではないが、いじくりまわした人間も悪いんじゃぞ?』
「召喚チートだけじゃなく、魔法やスキルも神が与えた力ですよね? やっぱり飽きて放置してます?」
『いろいろあるんじゃよ。良き力も悪しき力も時と共に変質していく。神々は与えた力の生末を見守っておるのじゃ。ぶっちゃけ興味を失ってそのままってことも良くあるようじゃがのう』
この世界の神々って、なんか自由過ぎる。
「邪神や悪魔はいるの?」
『人間だって、はっきり悪人だって奴はなかなかおらんじゃろう? 勇者須田だって一部では慕れておるくらいじゃ』
なんかはぐらかされてしまった。
そうか、須田があれだけやらかしても、神様の視点じゃ救う余地はあるのか。
カンダタだっけ? もしあの男が黙って蜘蛛の糸を登り切っていたら、極楽は大混乱だった筈。お釈迦様視点だとそれもありだった? それとも失敗するとわかっていて救いの糸をたらしたのだろうか? それも酷くない?
「あのう、この世界の神々って全知全能なんですか?」
『世界は変化し続け、神とて例外ではない』
「また適当にカッコよさそうなこと言って、誤魔化そうとしてません?」
『うむ、それもある。まあ、世界は勧善懲悪で完結するほど単純ではないということじゃな』
「勧善懲悪でスッキリしたかったんですけどね」
『そこまで心配せんでも、あ奴はこのままずっと地球に居座る気じゃぞ』
そうか、そうだよなあ。地球は娯楽で溢れているし、料理だって美味しいのがいくらでもある。お金さえあれば何でも手に入るユートピアだ。須田の奴、酒池肉林状態かな?
『いや、あっちは世紀末ヒャッハーな世界と化しとるぞ。おかげで追いかけとった漫画の続きが読めなくなったわい』
え、え? えーっ!!