ユニークなユニークスキル
魔王さん達が泣きながらプリンを食べている。
「所詮地上の王では駄目だったのか……」
いや、言ってる意味がわからないよ?
「甘いもの、柔らかいもの、冷たいものは贅沢品なんですよ。王様は贅沢するのが仕事ですから、敗北感があるんじゃないですか?」
セーラちゃんが解説してくれる、なるほど。でも、所詮はプリンだよ? 最近じゃアイナ婆さん達も自作して売り始めてるし。
銀貨一枚は結構ボッタくり価格だと思うけど、王様だったら余裕だよ?
「私の人生は、今日この日にぷりんと出会うためだったのですわ」
エルフの巫女さんもオーバーなこと言ってるよ。アイナ村の皆もプリンは大好きだけど、ここまでのリアクションは無かった。巫女さんだけあってボキャブラリーが豊富なのかな。
「やっぱプリンは最強よねえ。プリンアラモードとか食べたら、この人達どうにかなっちゃうかも」
「ぷりんあらも? そ、それは?」
魔王さん達が食べたそうな顔で僕を見るけど、首をふる。
一時期は頑張ってかなりストックを積み上げたんだけれど、みんな大好きなプリンアラモードだ。宴会のたびにゴッソリ減ってしまい、今や在庫ゼロだ。
「た、対価にエルフの奴隷百人お渡ししましょう!」
あ、エルフの人ってそんな扱いなんだ。
「駄目ですよ」
勿論お断りだよ。人一人だって養うのがどんなに大変か、長命のエルフとなればなおのこと責任とれないよ。
「さすが天界の食べ物、そこまでの価値が」
「食べたいものも手に入れることができなくて、何が魔王か! 私は何のために生きてきたのか」
哲学的に語ってるけど、我儘な幼児と変わらないからね?
作ってあげてもいいけど、我慢というものを覚えて貰った方がいいかな。しつけは大事だよ。
きっと魔王さんは王様だから、我儘放題に育てられてきたんだ。もうご老人だけれど、今からだって遅くない筈だ。
「では、我が国を、私が持つ全てを差し出しましょう!!」
いや、正気か? この人、ギャンブルとかさせたら絶対駄目なタイプだ。
「冷静になってよ。対価として全然釣り合ってないからね」
即お断りする。
「そ、そこまで! 天空の王の前では地上の王などムシケラに過ぎないということか」
「まあ、一杯のおかゆで国を売ったユダヤの王様もいたけどね」
そうなのか? 赤松の雑学はマニアック過ぎると思う。
だいたい、僕は国なんていらないし。統治とか面倒なだけだし。空島も最初はいい感じに無人島だったのに、いつの間にか大所帯になっちゃってるし。
後になって考えれば、グラさんの島で無人島生活してた頃が楽しかったなあ。生きるか死ぬかって限界の状況で命は輝くんだ。
まあ、そんなの無くていいから、できればのうのうと暮らしていきたいけど。
「天空人様と張り合おうなどと考えていた我らが愚かでした。秘密の力を全てお見せしましょう」
エルフの巫女さん達がしおらしく首を垂れる。
「どういうこと?」
「この人達、きっとユニークスキル持ちです。スキルの開示は絶対服従の証ですから」
「ああ、ワンちゃんがお腹見せるあれね」
セーラちゃん解説ありがとう。そして赤松のワンちゃん発言、顔に似合わず……いや、まあ、顔だけ見れば可愛い女の子か。
「私に与えられし特別な力、それは美肌です」
「何よそれ? 自慢?」
「そうではなく、他人のお肌を綺麗にできます」
赤松が食いついた。
「やってちょうだい」
いいのかなあ、結界を解除しちゃって。万一罠だったら、生殺与奪を相手に握られることになる。
赤松に何かされたら、僕が報復するけどさ。抑止力だね。
「ああっ! あっ、ああっ」
巫女さんが手をかざすと、赤松の顔から無数の白い粒粒が飛び出す。これってニキビの芯みたいなやつ? 毛穴に詰まったアブラだろうか?
「凄いです! 浄化の魔法ではここまでとりきれません」
セーラちゃんまでなんか夢中だよ。それでいいの? ユニークスキルってもっとこう、凄く強そうなイメージがあるんだけど。
「次は我が力をご覧に入れましょう。耳掃除の力です!」
もう一人の巫女さんが自慢げに言う。え? え?
次は僕の番か。膝枕をしてもらった瞬間、セーラちゃんがちょっと悲しそうな顔をした。僕は鈍感じゃないから見逃さなかった。赤松からは殺気を感じたよ、何故?
メリメリっと鼓膜が引き千切られるような音がした。痛くはないけど心配になる。大丈夫か? 大丈夫なのか?
ああ、でもちょっと気持ちいいかも。
そのまま靴下を脱がすように老廃物を引き剝がされた。
何かの標本のように、耳の穴の形そのままにフワフワ浮いている、耳垢が。
「へえ、耳の穴の中ってこんな形してるのか」
「蛇の抜け殻みたいですね?」
「それで、気持ちよかったの?」
まあ、気持ちよかったけれど。
ユニークスキルって本当に何だろう?
おならマスターも謎だけれど、耳掃除もちょっとどうかと思う。
気持ちいいのは確かだけど、三日に一度くらいやってもらえたら嬉しいけど……
美顔のスキルもそうだけど、商売にしたら一生食いっぱぐれしないかな。エステサロンみたいな?
そう考えると結構使えるスキルなのかもしれない。