スチームの勝利
「入口がビームの射線上とか、初見殺しもいいとこじゃない? ゲームだったらクレーム殺到よ?」
赤松の言いたいこともわかる。理不尽というかガチで殺しにかかってるもん。でもね。
「攻略されたら負けなんだから、なりふり構ってられないんじゃない? 魔王さん達も命がかかってるわけだし」
「攻略法が嵐の壁を飛び越えて真上から降下とか、そんなのミー君にしか無理じゃない。私の結界で防げるかなあ、ビーム?」
「工夫次第じゃないの? 何枚も重ねたり、あと角度とか?」
「結界を割られている間に新しいのを張りなおすみたいな?」
そうそう、世の中ゴリ押しでわりと何とかなるもんだよ。
「頭の悪そうな攻略法は、ゲーマーとして負けな気がするのよ」
「僕はそういうこだわりは全部捨てたなあ。命あってのものだね?」
「わかる。まだまだ生きてやりたいこと一杯あるもんね」
赤松は前向きだな。僕はとにかく死にたくないなあ。
元クラスメート達はチートを貰ったにも関わらず随分死んでいる。その力で殺した人達はもっと多いし。
理不尽だけれど、力が無ければ蹂躙されても仕方がない。だから力を求めるのか?
アニメの主人公とかは、殺すくらいなら殺された方がマシだとか良く言うけど。僕はそういうのは嫌だなあ。
「あの、伝説の殺人光線ですからね? 防ぐのは不可能ですからね?」
魔王さんが自信なさげに言ってるよ。
主砲ならともかく、おまけの武器だからね。赤松の結界ならなんとかなるんじゃないかな?
セーラちゃんはずっと静かにしていると思ったら、転がってる部品をつんつんして遊んでいる。好奇心旺盛なのはいいけれど、有害物質だったらどうすんの? 賢いようでまだまだ子供だなあ。
一応、歓迎の宴を開いてくれてるんだと思う。
見た目はそこそこ、量は少な目、全然美味しくないけど。まあ、ここじゃ食材も貴重だろうし仕方ないよ。
魔族であるセーラちゃんも微妙な顔をしているので、文化の違いって訳でも無さそうだ。
「調味料が塩だけなのはいい。塩は最高の調味料だし、塩加減も絶妙だ」
「流石はラピュータの王、お分かりになりますか。私は質素倹約を美徳としてまして、それこそが高い精神性の発露であると」
魔王さん、いい人なんだろうね? 不景気な国になりそうだけれど。
「味以前の問題よ、ゴリゴリじゃない。ちゃんと火が通ってないのよ」
「ここでは燃料も貴重なのです。落ち葉や枯れ枝を集めてやりくりしているのですよ」
そんなこと言われてもなあ。無かったら備蓄するとか工夫すればいいのにねえ。
「火の魔法は使えないんですか?」
ちょっと失礼な物言いかもしれないが、赤松の意見も、もっともだ。
「我々の火魔法は強力過ぎて、貴重な食材を消し炭にしてしまうので、使えないんですよ」
ドヤ顔の魔王さん。自慢することじゃないよ、それは。
「ご覧ください、これが私めの初級魔法にございます」
巫女さんの一人がバルコニーから空に向かって火柱を放ってみせる。うん、上級魔法並みだね。マウントを取ったつもりかな?
「これくらいの魔法でしたね、確かにこのまま厨房に持ち込むのは危ないですねえ」
同じくらいの火柱を出して見せる。向こうさんは一瞬だったけど、僕のはずっと消えないよ。
子供みたいな意地の張り合いが外交だそうだからね。要するに舐められなきゃ戦争にならないってことだ。
「そこでこんな時は石を使います」
インベントリから珪藻土から削り出した大皿と、火箸、そして適当なサイズの石をいくつか取り出す。
石を火箸で挟み、火柱に突っ込んで真っ赤になるまで焼いていくわけだ。火箸が溶けないように注意しないとね。
「あの、魔力は大丈夫なのですか?」
魔王さんが心配そうに聞いてくる。
「初級魔法ですからねえ。一日中続けても全然平気ですよー」
最近はMPが増え過ぎたからねえ。常時回復系の装備って、大抵は最大MPの何%かを回復してくれるから、いくつか身に着けていると魔法使い放題だ。
ああ、回復値が固定の奴はレベルが低いうちは良くても、今となってはゴミだね。市場価格は固定タイプの方が高いから需要はあるんだろう。
魔王さんがガン見してるのは、魔力の流れを解析してるんだろうけれど無駄だよ。蓄えたメタンガスを燃やしてるだけだし。
「はい、石が焼けたら、この蒸し器の下の段に入れます。上の段には生煮えの芋を入れて、水を注げばあら不思議! しばらく蒸し焼きにしまーす」
蒸し料理に外れ無しと言うくらい、簡単に美味しい料理ができる。料理下手でも焦げたりしないから、そこまで酷い失敗にならないのがいいよね。
蒸し過ぎると味は落ちるけど、それえも生煮えゴリゴリよりはずっといいよ。
「蒸し器の後片付けがメンドイけどね」
赤松は駄目だな。
「あ、私洗いますから」
セーラちゃんはいい子だ。浄化の魔法を覚えたので使いまくりたいんだろうけど。
蒸し上がった料理を、魔王さん達は無心で食べている。
「蒸し料理だと塩味だけの味付けもいいよね」
何もしてない癖に一番偉そうな赤松。でも、その強気な態度は交渉事ではプラスに働く。
『これ無茶苦茶美味しいじゃない! やっぱエルフ料理最強だったわ』
『実は私ら料理の天才だったとか? 知ってたけど』
エルフの巫女さん達が内緒話しているけど、聞こえてるよ。
物凄くプラス思考で羨ましいよ。まあ、僕は蒸しあげただけだし、まんざら勘違いでもないのかな?