オナラーの神殿
「オナラーとは愛と正義の無限の力」
「ゲドウムとは世界の調和を乱す悪」
うわー、エルフの巫女さんだー。しかも双子っぽい。
魔王さんにナビしてもらって、険しい山々に囲まれた秘密の神殿に飛んで来た。
本来ならば、この神殿にたどり着くには西遊記さながらに大冒険をクリアしないといけないらしい。
空を飛んで一気に乗り込むなんてズルができないように、神殿の周囲は嵐で閉ざされていた。
だけど、さすがに成層圏までは届いてなかったし。低気圧の中心には無風地帯ができるので、真上からそこに着陸すれば問題ない。
嵐を止める魔法を使うタイミングを失って、魔王さんはちょっと拗ねていた。まあ、大魔法なんだと思うよ。
おならで嵐を吹き飛ばせるか考えてみる。ちょっと難しいな。
核兵器なんて目じゃない莫大なエネルギーをぶつけてやる必要がある。無理やりゴリ押ししたら、神殿や周囲の地形まで巻き込んでしまうだろう。
「世界は正義と悪の対立によって成り立っています」
「最後は正義のオナラーが勝利をおさめるのです」
うん、まあ、ありがちな教義だね。
「あー、私わかっちゃったかも。ミー君がおなら人間だって言われて虐められたことあったよね? おならじゃなくてオナラーだったのよ。伝説の正義の使途?」
おならの話、赤松はまだ覚えてたんだな。
僕の力の源は正真正銘のおならだから、それはない。
でもまあ、都合よく勘違いさせておこうか? オナラーの具体的な力だって不明みたいだし、いくらでも誤魔化せるだろう。
おならマスターの真実は、僕が墓場まで持って行こう。
「それで、何故我々をここに?」
「この神殿は、歴代魔王の避難所でもあるんですよ。外敵に首都が攻められたり、内乱を鎮圧できそうになかったりしたら、この地に逃げ延びてほとぼりが覚めるのを待つ仕組みですね」
なんだかちょっと情けない魔王だね。
「勇者が来た時もここに逃げ込むの?」
いいぞ赤松、僕も聞きたかったことだよ。適度な図々しさは時に役に立つ。
「歴史上三回、勇者を誘き寄せて討ち取っております。当代の勇者もそうするつもりでしたが、おかげさまで異世界に封印することができました」
「感謝しなさいよね。あいつ不死身なんだから、罠じゃ倒せなかったわよー」
「それはどうでしょうかね。必殺の殺人光線ですよ? 普通は死にますよ」
魔王さんは自慢の光線を見せてくれると言い出した。
そんなことより、双子の巫女さん達の前で、あの変な喋り方をしてないのが気になる。よっぽど親密な関係なのかな?
魔王さん自ら秘密の地下室に案内してくれる、この神殿にはあの巫女さん二人しかいないようだ。
籠城する時に人数が多いと食料が無くなるんだそうだ。庭の畑で自給自足してるんだね。
岩に穿たれた長い階段を下っていく。壁に描かれた壁画が面白いけど、お尻から火を噴いて飛んでいるように見える天使達は何なんだろう? まさかおなら? いや、効果線的な漫画的表現だろう。
終点はかなり広い丸い部屋で、見覚えのある機械仕掛けのドラゴンが転がっていた。前にグラさんが復活させるのを中断してた奴と似ている。やっぱりな。
地下なのに小窓から明るい日の光が差し込んでいる。気になって覗くと、長い真っ直ぐな参道が正面に見える。
この神殿は岩山の上に建ってるから、ちょうどこの部屋は岩山の麓にあたるんだろう。
なら、この部屋が地上一階じゃないか? どうなんだろうね?
「えーと、聖なるドラゴンに注目して欲しいんですけどね。珍しくないですか?」
「あー、生きてるのも以前見てますんで。これって珍しいんですか?」
「完全体であれば、一頭だけでも世界を滅ぼす力を持ってるんですけどね。ラピュータでは普通でしたか」
どうやら魔王さんはこいつを見せてマウントを取りたかったようだ。せこい。
「こいつは随分壊れてますねえ。主砲も副砲も砕けちゃってるし、使えそうなのは対人兵装だけかあ」
ちょっと知ったかぶりしてみる。グラさんが趣味でいろいろ調べてるから、そこそこ詳しいよ?
「……必殺の殺人光線ですよ。そこの窓から敵の軍隊や勇者を一網打尽にします」
なるほど、そのための窓なわけね。一方向しか攻撃できないから、ここで待ち伏せしてるのか。
対人兵装って言っても、魔法の鎧とか装備してる相手を攻撃するんだから相当凄いよ。地球の戦車くらいならスパッといっちゃうよ? 歴代魔王の切り札だけのことはある。
果たしてこの武器で勇者須田を倒せたかなあ? あいつってどうやったら死ぬんだろう? 首を切っても復活するのはズルいなんてもんじゃない。どうせ溶鉱炉とかに放り込んだって、どこか別の場所で蘇りそうだ。
あいつを直接攻撃するんじゃなく、勇者に不死の力を与えている根源を絶たないと駄目だ。
不死身の力を失ってしまえば、ただの須田だし。わざわざ倒す必要もなくなる。
そうか、勇者の力を消し去ることは、須田の奴を救うことにもなるんだ。
まあ、そんな方法がわかるなら、こんなに苦労してないんだけどね。