伝説のオナラー
「こんなに高く飛ぶのは初めてです。驚きました」
魔王さん、普通に喋れるんじゃないか。僕はそっちに驚いたよ。
「何よあんた。キャラ作ってたの?」
「魔王といってもただの年寄りですからね。生きるためには道化でもなんでもしますよ」
なんか普通の人っぽいよね。セーラちゃんが黙ってるのは、幻滅したのかな? でもそこは理解してあげなくちゃ。偉い人でも四六時中偉そうにしていられる訳がない。夢の国の着ぐるみの中の人だって、家に帰れば普通の人なんだし。
「うんうん、魔族の人達の夢を壊さないよう頑張ってるんですね」
「ラピュータ王殿は分かり易くて良いですね。空を飛んで見せれば人の上に立つことができるのだから」
確かに、高い場所にいる方が偉い、みたいのはあるよね。獣でも上から睨みつければ逃げ出すって言うし。
ただし、人間相手にそれをやると、下から飛び道具で狙われる危険があるんだ。立体映像でもあればいいんだけど、今のところ赤松の結界に護ってもらうのが一番かなあ。
「中世ヨーロッパ的世界だと、立体映像とか実は凄いチートじゃない?」
赤松も考えることは同じか。最初は神様扱いされるだろうけど、見慣れたら驚かなくなるんじゃないかな? 神秘のベールを上手く使いこなさないと駄目だと思う。
ただの人間を、いかに偉そうに見せるか。ある意味、人類の永遠のテーマだね。
「あっという間に大海原を飛び越えましたね。魔族も人族もラピュータ王に支配されていた訳です」
ラピュタとか関係ないけどね、おならの力だし。でも説明が面倒だから教えない。
「転移門は多分あの辺ね。旗とかいっぱい立てちゃって、分かり易いなあ」
「兵が結構いますけど、近づかないと駄目ですか?」
「うん。声が届くくらいまで寄せてほしい。見つかっちゃうかなあ? 怖いなあ」
ハラハラドキドキするのはわかるけど、見つかったらおならで眠らせるから平気なんだ。
「大丈夫、だと思う。光の屈折を利用した光学迷彩? みたいな?」
赤松がカッコいいこと言うけど、要するに鏡を使ったトリックだ。結界を反射板にして逆さピラミッドみたいのをぶら下げるんだ。
「あちゃあ、もう見つかっちゃったみたい」
「そりゃあ見つかるよ。仕方ないなあ」
眠りのおならでプシューっと解決。
「強者の余裕ですねえ」
「魔王さんは封印急いでくださいね」
無益な殺生を避けるのは当たり前だ。別に余裕がある訳じゃない。
体力のない老人なんかは、たまにそのまま目覚めなかったりもする。不殺を貫いてる訳じゃないんだ。
魔王さんに余裕がありそうだったので、念のために砂漠の転移門も封印してもらった。
匂いが消えていて良かった。砂漠の強烈な紫外線が匂い物質を分解してしまったんだろう。
「こんな凄い秘密基地。本気でこの世界を侵略する気じゃない?」
赤松が何故かご立腹だ。ミサイルのサイロを見たからかもしれない。ミサイルって悪のイメージあるよね。
「異世界の武器は確かに凄そうですが、古代超文明の兵器に比べればまだまだですよね? ね?」
魔王さんが意味ありげなことを言う。あれかな? 前にグラさんがぶっ壊したやつ。
「当然ラピュータには現存しているのでしょうが、実は私も秘蔵しているのですよ、オナラー文明の遺産である超兵器を」
嫌な名前の文明だね。いや、別におならは悪くないけど……
「あー、雲崗石窟とかスケベニンゲン海水浴場みたいなものかな? 偶然なんだろうけど笑うよね」
赤松が雑学に詳しくてビックリだよ。そういやクイズの大会とかでテレビに出たんだっけ。
セーラちゃんと魔王さんはキョトンとしている。日本語を知らないとわからないもんね。こっちの人にダジャレとか通じないし。
赤松のことを少しだけ愛おしいと思ってしまった。