コンタクト
大空に炎で魔法陣を描き、燃えさかる竜巻を地上までグングン伸ばしていく。
以前こっそり練習していた、なんか魔人でも召喚できそうなカッコいいエフェクトだ。
ラピュタ王の降臨なら空から落ちていくべきだろう。ただ落ちたんじゃ芸がないから、ちょっと派手にしてみたんだ。
残念ながら、昼間だと炎がそこまで目立たない。しまったあ、夕方まで待つべきだった?
まあ、賽は投げられたんだ。開き直って堂々と歩んでいこう。
「ラピュータ王の御前である! 図が高い! ひかえおろう!」
なんだかんだ言って、赤松の奴、ノリノリである。スケさん役を頑張ってくれている。
白いとんがり帽子に白ローブ。右手に掲げているのは、源爺さんの家で見つけてもらってきた魔女っ娘スティックだ。単三電池二本で先端のピンクのハートがピロピロ光る。マニア垂涎の古いオモチャみたいだね。
ラピュータと妙なアクセントで喋ってるのは、セーラちゃんの監修だ。都言葉というか、都なまり? 伸ばすのがトレンドらしい。
セーラちゃんは白地に金糸で刺繡が入った武闘家の服っぽいのを着ている。僕のインベントリにたまたま入れてあった。こんなのいつ買ったかな? まあ、似合うからいいや。
僕は一番偉そうな服だ。この世界の袈裟みたいなものかな? モリさんに献上された発掘品の聖衣だ。
さらにその上に、宝石が散りばめられた黄金の飾りを、ごてごてこれでもかってくらい身に着けている。馬子にも衣装ってね。
衣装はバッチリだと思う。ただ、三人ぽっちは王様一行としては少ないだろうね。有名なご老公一行も三人か?
追加で天からおならパイプオルガンで荘厳なBGMを奏でる。曲はセーラちゃんが良く口ずさんでいる魔族のお祭りの歌だ。原曲は古代文明に伝わるありきたりなラブソングらしい、そういうの良くあるね。
おならパイプオルガンは楽譜とか知らなくても、鼻歌感覚で鳴らせるから僕でも簡単だ。歌うように、カンタービレ。ネーミングはおならカンタービレとか、おなラッパでもいいのにね。いや、おなラッパは駄目だ。
神々しい旋律も、おならで鳴らしていると思うと何やら間抜けに聞こえる。もちろん無臭の炭酸ガスで吹き鳴らしているのだけれど、でもおならだ。僕の頭の中では、擬音の『プ』に聞こえてしまうんだ。そりゃあ笑っちゃうよ。
それでも魔王の部下達は何やら感動? してるかなあ? 少なくとも武器は向けてこないようだ。ひかえおろうって言っても、ひかえてはくれないけれど。
将軍っぽい人が、慌てて輿の中に入っていく。どうやら魔王にお伺いを立てているようだ。
うん、困った時は上司に相談するのがいいと思うよ。果たして魔王はどう出てくるか?
このままバトル展開は勘弁してほしいな。
一応、戦う覚悟はしている。
赤松の結界が耐えられるレベルの攻撃だったら、空を飛んで逃げよう。
ヤバそうだったら、おなら火炎旋風で全て焼き払うしかない。
それでも駄目だった時は、枕を並べて討ち死にかあ。死ぬ時は一緒と君が言ったから、僕達はずっと戦友だ。セーラちゃんも赤松も凄くいい奴だよな。
「魔族の王が空島ラピュータの王に挨拶するーよ。ご機嫌いかがーかな?」
簾を上げてひょっこり顔を出したのは、しわしわの小さい爺さんだった。
良かった。どうやら戦わずに済みそうだ。
魔王軍の兵達は皆地面にひれ伏している。これは、魔王の顔を直接見てはいけないってヤツかな? ゴルゴンかよ。
うーん、別に目を合わせても大丈夫みたいだよ? ちんちくりんの爺さん一人、兵士がちょいと足で蹴飛ばせばイチコロだろうに、何故そんなに恐れる? やはり魔王様の魔法は超凄いってこと?
せっかく魔王の方から挨拶してくれたんだ。ラピュタ王としてしっかりTPOに合ったお返事しないとね。
「アイムファインサンキュー。エンドユー?」
ご機嫌いかがとか滅多に言われないから、とっさに中学英語の定型文で返してしまった。
教科書に載ってたくらいだし、多分大丈夫だ。
魔王はにっこり。よし! 大丈夫だった。
「久しーぶりに特級魔法を行使しーたのでね。ヘトヘトなんじゃーよ。あなたーは、魔力に満ち満ちーて羨ましい限りですーな」
なんだろう? 魔王様の喋りが凄く変に聞こえる。言葉の意味はわかるのに、喋り方が気になって頭に入ってこないよ。
「改めまして、初めまして魔王さん。あなたのその力を、この世界を守るために、もう一度使っていただきたいのですよ」
「他の穴も塞げーと? 魔族にーは関係なーきことだがのーう」
いやいや、一番恩恵を受けるのはあんたでしょうよ。その辺わかってるのかな? つまんない駆け引きするつもりなら、僕は帰っちゃうよ?
「勇者の狙いはあなたなんですよ? あいつを倒すのは難しいですが、今すぐ全ての穴を塞いでしまえば、地球に封印できますよ?」
魔王は皺だらけの顔をいじりながら、何やら考え始めてしまった。あ、鼻毛抜いた! あんまり威厳とか気にしない人なんだ。
この人はずっと輿の中にいるのが正解だと思う。