魔王と仲間になりたい
魔王が地球への転移門を封印できることが判明した。
「そんな神様みたいなことができるなんて」
「いや、地球の研究者達にも封印の解除ができたんだし、人間にできるレベルなんだと思う」
逆に神様にだってできないこともある。特にグラさんはまだ新米の神様だから、できることは限られている。
魔王が転移門を封印できるんなら、勇者達が使ってるアジアの転移門を使えなくすることもできるのか。勇者須田を地球に閉じ込めて一件落着作戦ができる。別に僕らも須田を殺したい訳じゃない。二度と関わらずに済むのなら、遠い世界で幸せに暮らしてくれて一向にかまわない。
地球の人達には迷惑をかけるかもしれないけれど、勇者と握手したのは国連なんだから自己責任だよ。僕は命を懸けて戦う覚悟までしてたんだから。
「というわけで、魔王を仲間にしたいんだ」
「どういうわけよ」
「魔王様を仲間にするには、相応の格が必要だと思います」
セーラちゃんが難しいことを言う。身分的なアレだろうね。身分が低い相手とは口もきかないという格差社会?
まあ、現代日本でも偉いセンセイ方とオハナシができるのは選ばれた特権階級、つまりセレブな人達だけだ。
時代や世界が違っても、人間のやることは基本そう変わらないんだろう。
「そうだ! カラバ侯爵だ」
「誰よそれ」
「今どきの子は長靴をはいた猫も知らないのかな。ペローの小説だよ」
主人公が身分詐称して王様の一人娘をたぶらかし、王国を乗っ取るという……随分酷い話だな。ちなみに教唆犯は猫。
「知ってるわよ、中世の人物でしょ」
いや……えーと、中世がギリギリ終わっちゃったくらいかな? 宗教関係以外の本を出版できたんだから、もはや中世じゃないと思うんだ。
「魔王様相手に侯爵じゃ位負けしちゃいますよ」
「なら、空王はどうかな。天空王とかの方が中二病っぽくていいかな。天帝、いや斉天大聖とか。悟空って相当イキッてたってことかなあ……」
「よくわかんないです。素直にラピュタ王じゃ駄目なんですか」
「あー、その称号はちょっと縁起が悪いのよね」
「えー、ラピュタ王なら魔王様とも釣り合うのに」
ボケとツッコミの応酬で漫才みたいになってる。面白いけど……いいよもう、それでいこう。一応空島の責任者だから嘘でもないし。
「交渉が上手くいかなかったら、魔王を攫っちゃえばいいよ。あたしの結界とミー君の爆炎魔法があれば、あんな連中ヘノカッパよ」
屁の河童……ヘッチャラと同じようなニュアンスで使ってるんだろうけど、不思議な言葉だよ。河童のおなら?
「相手は魔王だよ、僕達が知らない凄い魔法とか使えるかもしれない」
ここは魔法が使えるゲームみたいな世界だけど、ゲームバランス等一切配慮されてないし。相手がたまたま自分より強い魔法を持っていたら理不尽に負けてしまう。
攻略法としては、ひたすらにレベルを上げまくるのが一応有効だけれども、相性が悪ければレベル差があっても勝負にならない。
「あたしが増長してるって言いたいの? まあ、少しは調子に乗ってたかも。でもほら、結界って無敵だし」
「結界も解除されちゃうかもしれないよ?」
「え、それ困るよ」
「魔法って手の内がバレるまでが勝負ですからね。魔王様はその辺を徹底して秘匿されているから強いのです」
そうかー、当然相手の手の内を探る忍者部隊みたいのもいるだろうね。羽山みたいな虫使いが敵方にもいたら筒抜けだし。
空島に来たモリさんの元部下の中にもスパイは紛れ込んでるだろうし、秋山さんなんかも無自覚なスパイみたいなもんだし。
中世レベルの諜報組織だと侮ってはいけない。少なくとも平和ボケした世界で育った僕らじゃ勝負になるまい。
「あら、でもあたし達には神様のグラさんがついてるじゃない」
「魔王様には三百三柱の守護神が御味方くださいますよ」
「なによそれズルイ」
「関係ないけど、お米には八十八の神様がいるって言うよね」
「本当に関係ないわよ……それって七人の神様じゃなかったっけ?」
この世界の神々も八百万くらいいらっしゃりそうだよなあ。
大事なことは、こっちができることは相手もできて当然だということ。
チート無双もいいけれど、しっぺ返しが怖いよ? 王様に武器を向けたりしたら普通に死刑が常識だからね。
「要は攻め時と引き時を見誤るなってことよね」
まあそうなんだけど、それが結構難しいんだぞ。歴史に残る英雄達だって大抵それで失敗してる。
さて、魔王様相手に如何にせん。第一印象が大事って言うからね。ラピュタ王らしい恰好をしなきゃね。