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シーフードパラダイス

 生きていると毎日食べなくてはならない。死者は食事をしない。少しだけリッチのグラさんを羨ましいと思ってしまう。

 

 この島には野生化した丸イモが生えていた。引っこ抜くと根元にピンポン玉くらいのイモができている。

 売られている大きい丸イモに比べると粘りが強く、サトイモのような食感だ。本物のサトイモの方が美味しいけど、無い物ねだりをしても始まらない。

 

「異界のサトイモとやらと同じ植物かどうかわからぬが、お主の言うような芋は湖沼地帯で良く栽培されていたぞ。儂は博物学にも詳しいので知っているのじゃ」

 

「じゃあ米は! 稲はご存じありませんか?」

 

「お、おう……」

 

 グラさんも若干ひき気味だ。だけど仕方ない、炊き立てご飯が食べたい。冷ご飯でもいい。塩お結びでいい、というか塩お結び超食べたい。

 コンビニおにぎりとか夢に出るもんね。塩じゃけ、野沢菜、昆布に梅干し。日本にいた時はツナマヨ派だったけど、異世界で思い出すのは和食っぽいラインナップだ。

 

 結論から言えば、どうやら稲はあるらしい。ただし、シカの例もある。地球と同じと思わない方が良さそうだ。

 

 この島にもキビっぽい穀物は生えていた。本当にキビかなあ? 小鳥の餌のアワ穂のようにも見えるし、特大のエノコログサにも見える。

 エノコログサはネコジャラシともいう誰でも知っている雑草で、それを食用に品種改良したのがアワだと聞いたことがある。野生に戻ったアワだとしたら、それはネコジャラシ? いや、そんなのどうでもいい。

 問題は美味いか不味いかだ。おならコントロールでサイクロンを作り、種子をむき身にしていく。おならコントールが万能過ぎて、新しく覚えた魔法の大半が意味ないんだよ困ったもんだ。

 

 炊いてみると意外にご飯っぽくなった。粒粒が小さすぎて食感はプチプチたらこみたいだけれど、驚いたことに味はかなり白米に近い。

 飯盒炊飯でご飯を半分炭にしてしまった苦い経験から水を多目にしてしまい、お粥みたいになってしまったな。これはこれで正解か?

 

 一瞬何か重要なことを思い出しそうになったけど……ま、いいか。

 

 

「穀物をそのまま煮て食すのは野蛮ではないか? 臼で粉に轢いてパンや麺類に加工するのが文明的である」

 

 グラさんは頭が固いなあ。

 

「パンとか麺もいいんですけどね。炊いたご飯も美味しいんですよ」

 

 炭水化物は確保できた。あとはおかずだね。塩味だけの芋粥にしてもいいけれど、もう少し豪華にしたい。

 

 磯を探せばサザエにウニ、モクズガニっぽいのがウジャウジャいるし、少し深い場所にはタコやウツボ、ケガニみたいのもいる。そして、いたいた! タラバガニっぽい奴。

 

 カニ雑炊? シーフード雑炊だね。生ウニやカニ脚のむき身は加熱し過ぎないように火を止めてから投入。卵が欲しかったな。

 ついでにサザエのつぼ焼き、焼きウニ、タコの串焼きなどをどんどん焼く。ガスで焼くより炭火が美味しいんだろうけど、面倒だしこだわりは捨てる。手頃な石をおならファイアーでガンガン焼いて、その上に貝なんかを並べるだけだ。

 

 まずは焼きウニ。醤油があればいいんだろうけど、そのままでも塩味がする。火を通すと身が縮んじゃって随分小さくなってしまったけれど、味はかなり濃厚だ。珍味系だね。

 次にタコ。新鮮だから刺身でもいけそうだけど怖かったし。ぬめりが凄かったけど、焼けばなんとかなりそうだった。口にすると熱っ、でもうまっ! ジューシーだ。

 

 毒があったらどうしようと食べてから思ったけど、一応解毒の魔法っぽいのも覚えてるんだ。浄化のおならだ。毒、麻痺、石化などあらゆる状態異常を解除できるらしい。フグ毒とかにも効果あるんだろうか?

 

 サザエのつぼ焼きは美味いけれど、これは醤油がないと魅力半減なやつだ。苦いキモはどうしよう? 貝毒は怖いよね。アワビのキモだったら命を懸ける価値はあるんだけどなあ。今度アワビも探そう。

 

「美味そうに虫など食べおって」

 

 グラさんは終始ジト目で僕の食事を見ていた。カニもタコもグラさん的には虫みたいだ。

 

「カニは虫とは違います。僕の世界じゃご馳走なんです」

 

 カニもウニも贅沢品だよね。それが岩場にいくらでもいる。パラダイスか? パラダイスだね。

 欲を言えば本物の米、味噌、醤油が欲しい。それにお酢が欲しい。カニ酢、三杯酢、ポン酢。海産物とお酢の相性は抜群だ。

 

 思いつくまま食について熱く語り続ける。なんだかんだ言ってグラさんは聞き上手だ。

 

「野蛮とか言ってすまんかった。お主の世界の食文化は儂の想像を遥かに超えているらしい」

 

 グラさんは一体どんな想像をしてたんだろうねえ? まあ、誤解が解けたようで何よりだ。

 

「そんな大袈裟なものじゃありませんよ。まあそれでも、美味しく安全に食べるためには、細菌や寄生虫の知識、冷蔵手段、輸送用のインフラ整備、えーと、とにかく、いろいろな知識と技術が必要になるんです」

 

「なるほど、賢者の英知と大勢の魔法使いの協力があって初めて、虫の肉を安全に食することができるのじゃな。この世界の人間が下手に真似をすれば、命を落とす者も大勢出よう。禁忌とされているのもそういう理由であろうな」

 

 誤解が解けたと思ったら、新たな誤解が大量に生まれてしまった。まあいいか。

 

 後片付けをしていて、頭に引っかかっていたことを急に思い出した。そうだ! バスごと異世界に召喚される前、飯盒炊飯でカレーを作っていたんだ。

 余ったジャガイモ、タマネギ、ニンジンがバスの荷物室にまだある筈だ。そして美味しい玄米も! 玄米は発芽する。それに殻がむけていない籾も一合に十粒くらい混入していた。おかげで玄米をとぎながら籾を取り除く作業が大変だったんだ。

 それだけじゃないぞ。夜はバーベキューの予定だったから、夏野菜なんかも沢山積み込んであった。トウモロコシやサツマイモ、シイタケなんかもあった筈だ。ああ、デザート用のスイカやマクワウリなんかもあった。

 肉やソーセージなんかは当然腐ってるだろうけど、種や芋類はまだ生きているかもしれない。

 

 危険だけれど、バスを確認しに戻ろうか? すでに誰かが回収してしまった可能性もあるけれど、忘れられて放置されているかもしれない。

 

 鎧を着ていれば人探しの魔法は防げる。なら逆にそこが盲点になるんじゃないかな?

 

 せっかく逃げきれたかもしれないのに、お米のために命を懸けるなんて馬鹿げている?

 今後、銀シャリを一生食べられないとしたら、果たしてそんな人生に何の意味があるのかな?



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― 新着の感想 ―
[良い点] 逞しく食材集め&調理。 シーフード祭りは素晴らしいが、醤油と米の不在を強烈に主張してくるのが難点。 [一言] 米のために危険を冒す。日本人なら仕方ない。だが、あのキチ勇者とエンカウントする…
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