レベル補正
狩人達は壊れたドローンは売ってくれるが、狩場は教えてくれない。そういう掟というか、マナー?
田舎の爺ちゃんもキノコの生える場所は一子相伝とか言ってたし、気持ちはわかるよ。生活がかかっているとなれば、なおさらだろう。
聞き出さなくても、虫使いの羽山に探ってもらえばすぐにわかることだし。
小さい虫はどこにでもいるから、誰も怪しいとは思わない。究極の偵察ドローンだよ。
その前に一度空島に戻って、グラさんに相談しよう。
『地球からドローンがやって来ている? 面白い機械じゃのう。機能が実に分かり易い』
グラさんはプロペラを見て喜んだ。いや、科学的知識が無ければ理解できなくない? さすがは神様だ。
『いや、儂だって風車くらい見たことがある。そう馬鹿にしてはいけない』
ああそうか、風車は普通にあるよね。原理は同じか。
「いや、そんなことよりですね。地球の機械が沢山飛んでるんですよ、変じゃないですか?」
『地球に繋がる門が開いたようじゃのう。それも立て続けに三つということは、偶然ではあるまいて』
「それは召喚とは違うんですか?」
『違う。儂は門は作れんし。あれは場所探しが結構大変なんじゃよ。逆に言えば、場所さえわかっていれば開けるのは造作もない。本来、勝手に繋がる類のものじゃし』
何かの拍子に、二つの場所がたまたま繋がることがあるらしい。そういった自然発生した門は大抵不安定で、時間が経つと消滅してしまう。うっかり門を通って別の世界に踏み込んでしまったら、帰れなくなる。
何故か門が繋がる先は人が住める世界で、宇宙空間とか海の底と繋がったりはしないらしい。
「それって、悪戯な神様の仕業じゃあ?」
『そうかもしれんし、そうでないかもしれん。確かなのは、昔の魔法使いが不安定な門を固定する術を編み出したということじゃ』
地球と繋がる門が三つも同時に出現したとなると、明らかに意図的なものだよ?
凄い科学で異次元ゲートを開いたんだろうか? アメリカとか怪しいな?
『いや、凄い科学とかではなく、門についての古い文献とか調べたんじゃろう。大昔に地球側で封印しとったんじゃろうなあ』
そっち系かあ。そうなるとピラミッドとかが怪しい? ストーンヘンジやモアイ像とかも、いかにも秘密がありそうだ。
「あれ? ゲートが開いたってことは、心配していた病原菌とかも?」
『さよう、少なからず犠牲者は出るじゃろうて。領主が凡庸だと領民は不幸じゃな。疫病に飢饉、重税に戦と、負の連鎖が続くからのう』
何その凶悪コンボ。戦国系ゲームで内政系武将がいないと詰むパターンだよ。
『遺体をきちんと焼くだけでも、全滅は免れることが多い。だから感染者を村ごと焼き払う領主も出て来る。お主ならどうする?』
そんなこといきなり言われても分からないよ。でも、災害はいきなりくるんだよな。つまり僕は無能ってことだ。
「この世界の村って、基本的に自給自足できるじゃないですか。何かあったら村に引き籠ってもらって……いや、何かあってからじゃ遅いのか。感染者が出たら封鎖するしかない? 病気に勝つには体力だよね? 経口補水液? 砂糖と塩と、綺麗な水か……」
清潔にして、栄養をとって、暖かくしていれば、単純に助かる人は増える筈だ。付け焼刃でできる対策なんてその程度だろう?
この世界にも薬はあるし、治療魔法だってある。どれだけ効果があるかはわからないけれど。
ああ、地球側もヤバイよね。どこの国かは知らないけれど、侵略者達が馬鹿でなければ当然対策はしているだろう。
地球の医学は発達しているし、病院だって沢山ある。心配しなくても、異世界の伝染病くらい偉い人達がなんとかするさ。
「降参です、僕にはわかりません。正解を教えてください」
『正解はない。正解も間違いも、己で決めなければならん』
グラさんはまたそういう難しいことを言う。
いつの間にかリーダーっぽいポジションになってしまっているけれど、別に僕は領主とかになるつもりはないのに。
赤松が用事があるらしいので、アイナ村へは羽山と二人で行くことになった。
赤松の結界がないと、お姫様抱っこになる。これってセクハラじゃないだろうか?
飛行船がもっとスピードが出れば、いろいろ便利なのに。超音速の移動手段がおならしかない以上、僕が頑張って飛び回るしかない。
羽山は普段は大人しいけれど、怒らせると怖いかもしれない。紳士的に振舞うよ。
アイナ村に到着してしばらくすると、昨日より大勢の猟師達がやって来た。この人達は、一体どこから情報を得てるんだろうねえ?
ドローンを金貨で買い取ったのが噂になっているみたいだ。普段、商人達に余程買い叩かれてるんだね。
相変わらず口が堅いけれど、羽山がいれば大丈夫だ。虫達に尾行してもらう。今夜はアイナ婆さんの温泉宿に一緒に泊まり込みだな。
金貨を手にした猟師達の大半は、そのまま酒場に向かったらしい。大金は奪われる前に飲んでしまえということか。
僕も最初弱っちかった頃は苦労したから良く分かる。たちの悪いやくざ者はどこにでもいるんだよ。
それでも中には、再び狩場にとんぼ返りした者もいたみたいだ。
「尾行されてないか、すごく気にしてます。さすがに虫達には気づいてないみたい」
わざと回り道したり、いろいろ工夫してるみたいだね。
「山道なのに、凄く歩くの速い。羨ましいなあ」
僕も最近はすぐ飛んで移動するので、歩くのは苦手だな。鍛えないといけないとは思うけど、なかなかそういう時間もない。
猟師は歩くのも仕事だから、そりゃあ鍛えられるよ。
「あっ、ドローンが飛び出して来た。猟師さん撃たれたわ! ちょっと痛そう」
「痛そうで済むのか」
「ドローンを弓矢で撃ち落としたよ。凄くない?」
まあ、小鳥に矢を当てるよりは、的が大きい分簡単だろうね。
どうやら門の場所が判明したので、さっそく羽山と飛んで行く。
二つの石の塔の間に、門が開いているようだ。角度によっては、空間が虹色に輝いて見える。
「また別の猟師さんが来たわ」
もう別に見つかってしまっても構わないのだけれど、思わず飛んで逃げる。
誰もいそうもない岩山まで一気に数千キロ飛んだ。
「分からないのは、銃で撃たれて平気なことだよ」
インベントリからドローンの残骸を取り出してみる。
銃を外すと、機関銃というより自動小銃って奴かもしれない。銃の部品だけ組み込みましたって感じだ。引き金はついてないけど、繋がってるワイヤーを引っ張れば発射する仕組みだな。
試しに遠くの大岩を狙って撃ってみる。
パパパンと軽い発射音がして、一瞬後に三階建てのビルくらいある岩が吹き飛んだ。
「ミー君、魔法使うなら言ってよ」
「いや、魔法は使ってないよ。凄い威力の弾が入ってた」
羽山は少し考えてから、何故か自分も銃を撃つと言い出した。
「気をつけて……銃だし」
「これを引っ張ればいいのね」
羽山は僕が撃ったのより遠くの岩を狙った。
当たらなかったけれど、周囲の土地を少し吹き飛ばした。
「ミー君程じゃないけど、明らかに銃の威力は超えてるよね? これってレベル補正がかかってるんじゃない?」
ああ、ゲームだとそういうのあるよね。使い手のレベルやステータスで攻撃力に補正がかかるんだ。
「剣とかならわかるんだけれど、飛び道具が強くなるのは納得いかないよね」
「そういうものだから。ドローンのレベルが低かったから、猟師さん達にはほぼ効果がなかったんじゃないかな?」
「そんなルールがあったのか。気が付かなかった」
「ミー君は武器とか使わないから。短剣とかだと補正が乗ってるの良くわかるよ? でも、この銃はちょっと補正がかかり過ぎだと思う。地球製だとレートが違うのかな?」
僕達が地球人だから?
試しにそこそこレベルが高いライルに撃たせてみたら、羽山並みの威力があった。
これはかなりヤバいかもしれない。地球の武器は危険だ。