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その頃の勇者君


「三井寺君の反応がないわ」

 

 シャーマンの吉田は、ここ数日定期的に人探しの魔法を使っている。気が付けばターゲットの三井寺の反応がなくなっていた。

 人探しの魔法も完璧ではない。対象が神殿や古い建物の中にいるとしばしばロストする。スマホで言うところのアンテナが立たない場所のようだ。

 

「小野の反応はどうなっている?」

 

「あー、小野君はねー。海の上にいるみたい。船に乗ってるんだろうね」

 

「なるほど。小野は三井寺を無事に処理できたということか」

 

「言い方! そんなだから冷酷とか爬虫類男とか言われちゃうんだよ」

 

 勇者の須田の物言いに、吉田が駄目出しする。勇者グループに入っているように周囲に思われているが、吉田本人は中立の立場のつもりだ。

 

 できればあまり関わり合いになりたくないと思っていたのだが、結果的に三井寺殺害の片棒を担がされる羽目になってしまった。

 魔王を倒して日本に戻るための尊い犠牲だというが、完全に納得できたわけではない。 

 

「僕達がこの世界で生きていくには、甘っちょろい感情は捨てなきゃならない。極限状態では冷徹な判断も必要なんだ。僕はリーダーだからね。協調性のない人間は迷わず切り捨てるよ」

 

「三井寺君ってわりと協調性はあったけどなあ」

 

「無能じゃ皆の負担にしかならない。」

 

「わかるけどさあ。なら小川君を派遣したりしないで、放置で良かったんじゃない?」

 

「蘇生アイテムの確保は必要だった。そもそもが聖女グループからの要請であって、僕の責任じゃないけどね」

 

「でも小川君負けちゃったよね? ホントに三井寺君って無能なのかなあ?」

 

「無能さ。その証拠に小野がちゃんと始末しただろう。小川が無能過ぎたんだよ。三井寺じゃなく現地人に倒された可能性もあるしな」

 

 死が身近な世界に来てみんなおかしくなったと吉田は思う。ゲーム感覚だ。モンスターを殺しても友達が死んでも、それほど現実感が湧かない。

 

「伝説の鎌を無くしたって聖女様がカンカンだったよ」

 

「あいつはすぐ人のせいにするからなあ。聖女だと煽てられて自我が肥大しているんだ。小野が鎌を持ち帰れば大人しくなるだろう……彼はいつ戻る?」

 

「そんなのわからないわよ。帆船よ帆船、あれって風任せなんだから。あ! あれ?」

 

「どうした?」

 

「小野君が離れて行ってるかんじ? 行先が違う船に間違って乗っちゃったのかなあ」

 

「あいつ、逃げたな!」

 

「まあ小野君ってわりとそういうとこあるし。三井寺君はあまり動かなかったから追えたけど、小野君が本気で逃げたら捕まえられないよ」

 

「まったくどいつもこいつも余計なことばかりする。魔王の攻略スケジュールがどんどん遅れるじゃないか」

 

「須田君はタイトなスケジュール立てすぎなのよ。あまりキツイと皆ついて来なくなっちゃうよ?」

 

「賢王を納得させるにはそれなりの成果が必要なのがわからんのか! 異世界人に指図されずに自由にやれてるのは誰のおかげだと思ってる!」

 

「無理して頑張らなくっていいって。てゆーかさ、みんなあんまし感謝してなくない?」

 

「リーダーは孤独さ。他の誰にも出来ないから僕がやらざるを得ないんだ」

 

「そこは偉いけど、三井寺君や小川君を殺しちゃって辛くない?」

 

「なんで? 三井寺を殺したのは小野で、小川を殺したのは三井寺だろう?」

 

「そりゃあ実行犯はそうだろうけど、殺人教唆も罪でしょうが」

 

「ああ、人探しの魔法を使った吉田はそうだよな。安心していいよ、君の罪に関しては僕が弁護してあげる。情状酌量の余地はあると思うからね」

 

 吉田は須田の顔をじっと見る。冗談かと思いたかったが、すこぶる真顔だ。

 

『もしかして、こいつって超ヤバい奴?』

 

 逃げ出した小野が少し羨ましくなってきた。やっぱり皆おかしくなった。自分もおかしくなった。それでも目の前の真面目そうな少年に比べればまだまともかもしれない。

 

 勇者は他人に厳しく自分に超甘い奴だった。

 

 


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― 新着の感想 ―
正直、宙に浮かぶ骸骨よりもこいつの方が怖い…! 人の形をした怪物とはかくなるものなのか。
[良い点] 安定の勇者ドクズってより、これはキチの者かな… [一言] 死んだと思ってくれてる内に、博識グラさんと知的生活を送るのだ!
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