虫の知らせ
グラさん島、アイナ村、北の島、空島、重要拠点がどんどん増えていく。
頻繁に行き来する者も増えて来たから、日に二回くらいは巡回するようにしているけど、定期便も考えた方がいいかもしれない。
野村がいずれは飛行船で定期航路を開くとか言ってたけれど、速度が問題だね。何しろ地球で言えば、沖縄、樺太、テキサス、シドニーくらい離れている。大陸間弾道飛行ができないと、日帰りちょっとしんどい。
せめてジェット旅客機くらいの速度が出ないと辛いよね。まあ、輸送船としては需要があるかもだけど、飛行船にはそんなに荷物は積めない。
この世界では一般的なインベントリの魔法を覚える方が早いと思うんだ。最大魔力が減ってしまうペナルティがあるから、皆あまり覚えようとはしないんだよなあ。使いまくってるのはセーラちゃんくらい?
最大魔力なんて、毎日魔法を使っていればどうせ使い切れない程増えるんだけどなあ。
空島に着いた時、軽い違和感を感じた。虫の知らせって奴かもしれない。
モリさんに手紙を届けて、聖都周辺に配達する分を受け取る。有能な元部下を何人か呼びよせるつもりらしい。
人が増えたこともあり、貨幣の発行は急務だそうだ。とりあえずは紙幣でいいらしい。そうなると経理ができる人間がひつようなんだそうだ。
そして、組織作り。人事担当の部署が必要になってくるらしい。
ただ、注意しておかないと、経理も人事も権力が集まりやすい部署だけに、暴走しやすいらしい。
「人体で譬えますと、胃袋だけが成長して全身を乗っ取ろうとすれば、人は死にます」
モリさんが気持ちの悪い例え話を持ち出す。なんだよそれ? 恐怖のイソギンチャク人間だ。
「軍隊組織が国を乗っ取るって話はよく聞きますが」
「ああ、それもありますね。力を持つ組織は、手綱を緩めればすぐ暴走しますから」
武官が権力を握ると、見境なく軍事費が増額されて国が亡びる。でも、戦争して勝ち続ければわりとなんとかなったりもする。
逆に文官が権力を握ると、軍事費がどんどん削られて、国は豊かになる。でも、殻を無くして肥え太ったカキは周辺国にとってはご馳走でしかなく、美味しく食われて終わる。
要するにバランスが大事なんだよね。
頭脳に当たる組織が、正しい判断を下せれば良いのだけれど。どんなに優秀な独裁者も、見たいものしか見えなくなる病に罹って最後は必ず致命的なミスを犯すらしい。経験則かと思ったけれど、なんか難しい理論があるようだ。
なので、定期的に王を殺すやり方をとっている国もあるらしい。王様がちょっと可哀そうだけれど。
民主主義は、この世界ではあまり良くないらしい。実は民主制の国家は結構あるんだけど、帆と櫂が別方向に進もうとして結局何にも決められないらしい。そういうの、ブレーキとアクセルを同時に踏むって言うんだよ。まあ、選挙権を持っているのが一握りの特権階級だそうだから、日本とは全然違うみたいだけれど。
うーん、僕はなんとなく民主主義にしようと思ってたんだけれど、これは駄目だね。
「悩むことはありません。我々には素晴らしいグラ神様がおられるのです」
神権政治って奴ですか? グラさんは全知全能じゃないけれど、どうなんだろうね?
モリさんに教わることは多かった。罪と罰についても避けては通れないみたいだ。
北の島では喧嘩や盗みも起きているし、野村の無茶な命令のせいで過労死も起きている。あいつが連れて来た部下だけれど、放置もできないので一旦作業は中止させた。別に命を削ってまでする仕事じゃないし、野村への不満も溜まっていたからな。遣り甲斐詐欺みたいなやり方じゃ限界があるんだ。
「それと、蜂達を早急になんとかして欲しいのですが。最近殺気立っていて、いつ刺されるか」
「あの蜂達なら味方は攻撃しない筈ですが……やばいな」
外から聞こえてくる羽音が明らかにおかしい。
飛び出して様子を見ると、攻撃はしてこないけれど、なんか苛立ってる感じだ。
天変地異の前触れだろうか? それとも羽山に何かあった?
あー、そういえば、今は野村と組んで飛行船の仕事をしてるんだった。
最後に一緒に食事をしたのはいつだった? 忙しいから来れないみたいだったけど……これはマズいかもしれない。