帰還志願
「私を日本に帰してください! お願いします!! あんた神様なんだろ!!!」
秋山さんは普段はわりとまとも? なんだけど、酔っ払うと駄目だね。
今のグラさんなら神様パワーで送り帰すことは、多分できる。でも、秋山さんが能力を持ったまま戻っちゃったら、地球に何が起きるかわからない。
主に植物を育てる力だから、比較的影響が少ない? いや、使い方次第では地球の食料問題を解決できるし、逆も可能だろう。一人の人間が持つには大き過ぎる力だ。
「私には妻も子供もいるんだ! 年老いた両親だっている。少しでも慈悲の心があるなら……」
『死の誓いをしてもらうことになるが、いいかのう? そなたが少しでも能力を使えば即座に命を失う呪いじゃ』
「そんな、無茶苦茶な……」
そんなに無茶苦茶かな? もしかして秋山さんは地球で魔法無双するつもりだった?
『チキュウに混乱を持ち込まぬための措置じゃ。加えて転移の前は、清浄な部屋で何十日かを砂糖水だけで過ごす必要があるのう。疫病を持ち込んで大勢の民が犠牲になれば、そなたも寝覚めが悪かろう』
「え、疫病って……」
『馬鹿どもが無責任に召喚の儀を行った後に、謎の疫病が流行ることはよくあることなのじゃ。そなた達ならその原因に心当たりがあろう』
異世界からの未知の病原体か……絶対ヤバい奴だ。大航海時代にも新大陸では免疫を持たなかった人達に大きな被害が出ている。
時には伝染病は侵略の手段としても利用されたんだ。天然痘に一度かかった者は二度とかからないと当時から知られていたからね。
先住民に友好の証として病人の使った毛布や衣類などを送り、感染が広まり無抵抗になったところを征服する。あるいは修道会が乗り込んで治療する。虐殺は恨みを買うが、病死であれば侵略者に怒りは向かない。伝染病を恐れない修道士達の献身的な姿は、布教のためのパフォーマンスにもなる。
まったく……禄でもない知識チートの使い方だ。
そうか、グラさんはちゃんと疫病にも配慮してくれてるんだ。マジ神様だよ。
『どうじゃ? そなたにそれだけの覚悟はあるのか?』
「いや、それはちょっと……少し考えさせてください」
土壇場で秋山さんはヘタレた。ああ、これは酔いが醒めたら無かったことになるパターンだ。
良く言えば人間臭い人だよね、秋山さんって。