天空の島
「すごいぞ! 島が空飛んでる」
「ラピュタより大きいわよね? 富士山くらいあるんじゃない?」
赤松も珍しく興奮している。
うーん、でも富士山は盛り過ぎだな。比較対象物がないので良く分からないけれど、黒姫山くらいじゃないかな?
『どうじゃ? なかなかの掘り出し物じゃろ?』
グラさんはドヤ顔をしている。髑髏でも僕にはわかるんだ。
「伝説の空飛ぶ島が本当にあったなんて」
セーラちゃんは、なんで泣くの? 感動のあまり? まあ、壮麗なBGMつきなら僕も涙腺が緩んだかも。
「でも、こんなに高度が高いと息ができませんよ」
成層圏の空気は薄いんだよ。あれ? でも島には普通に木が生えているな。魔法で空気があるのかな? 島が空飛んでる時点でなんでもありか。
島の底はどうなってるんだろう? 高度を少し落として下から見上げようとしたら、急に島が消えてしまった。
再び高度を上げるとパッと島全体が出現する。
「あれ? まさか、この島って幻?」
「ゲームの背景みたいね。ああいうポリゴンって裏から見ると何もないでしょ? ゲーム感覚?」
ああ、ゲームあるあるだね。カメラが3Dオブジェにめり込んでしまうと、いろいろ見えてはいけない世界が見えたりするよね……赤松もゲーマーだったか。
『幻と言えば幻じゃな。この島は本来地上に存在する。ただし、島へ出入りできるのはここからだけじゃ。あの光の道を通って降りるのじゃ』
光の道って、あのガイドビーコンみたいな奴か。
一度目は失敗して、そのまま島の裏側に素通りしてしまった。特にペナルティはないけれど判定がシビアだ。
二度目は慎重にコース取りをし、着陸成功。
自慢じゃないけれど、こんなのできるの僕くらいじゃないかな? 少なくとも竜骸じゃ絶対無理だ。そもそもこの高度まで上がって来れないけれど。
「うわ、なんか凄く普通! 景色はいいけど」
地面は微動だにしていない。本当は地上なんだから当然か、ややこしいね。
それでも視点は高い空の上だから、絶景だ。眺めのいい場所に露天風呂でも作りたい。下界を眺めながら入浴して、人がゴミのようだとか言ってみたい。人なんか見えないけど。
「あれ? 景色がゆっくり動いてない?」
『空を彷徨い続ける島じゃからの。位置を特定できるのは、神かここを作った連中くらいじゃ』
「その人達が世界を一度滅ぼしてしまったのですね?」
セーラちゃんが神妙な顔で聞く。
「最終戦争ね。よくある話だわ」
赤松の言い方は誤解を招きそうだ。
『最終戦争の準備はしとったみたいじゃが。滅びの原因は事故じゃよ』
「なんだかなあ、ドラマチックじゃない? ああでもドキュメンタリーとしてなら……」
赤松もやっぱりちょっと変な奴だよね。
「ねえグラさん、確かにいいとこだけど、僕達が使っちゃっていいの? 他の神様に怒られたりしない?」
『ここに辿り着ける者がいない限り、無価値な土地じゃからのう』
ふーん。
改めて光の道を見上げる。この凄い仕掛けを作った人達は、僕より上手く空を飛べたんだ。
地球の科学文明と単純比較はできないけれど、地球負けてる気がする。
何しろ大きな島を空に浮かべてしまう連中だ。多分、核兵器とかもっと凄い武器を持っていたんだろう。
「あの、神様。この島は本当は地上にあるんですよね? 地上から直接出入りできないんですか? 鳥とか、虫とか」
『それは結界の技術じゃろうな。そなたの能力とも大いに関わっておるのではないかな?』
「私にもラピュタが作れる? うふふ、アハハ」
赤松が壊れた? 実害は無さそうだし、まあいいか。
「でも良かったんですか? グラさん武器とか嫌いなんじゃ?」
『そんなものは時と場合による。それにこの島自体は武器ではない。空中軍艦の乗員の保養所じゃった』
ああ、基地みたいなものかな? 空中軍艦がどんなものかは知らないけれど、地上の方が居心地はいいだろうし。フェリーで八丈島に旅行した時は眠れなかったしなあ。
遺跡の類はとっくの昔に朽ち果てているだろう。
まずはグラさんのためにとびっきりの神殿を作ろう。見た者がグラさんへの信仰心をもりもり抱くような……うーん、何かいいアイディアはないかな?