おかえりグラさん
「出たわ! 今度は本当に出たの! ガイコツのオバケが、窓から着替えを覗いてた!」
相変わらず竹井は竹井だなあ。オオカミ少年ならぬオオカミ少女だ。
なんでもないことで大騒ぎするのはいつものことなので、誰も本気で相手はしない。
「ホントなんだってば! ミー君ドカンってぶっ飛ばしてよ! あたしを見てニタって笑ったんだから! 口が耳まで裂けてたし!」
「いや、骸骨だったら口は裂けてないよ」
僕は骸骨にはちょっと詳しいからね。肉がないから、顎の骨が下がったらそのままカパッと開くだけだ。表情とか作れないし、笑顔もできない。
「なんで冷静なのよ! あたしが襲われたのよ!」
「あの、襲ったとかじゃないんですよ。グラさんは紳士ですから。窓が開いていて見えちゃったんで、失礼のないように目をそらして立ち去ったんだと思います」
今度はセーラちゃんまで何を言い出すんだよ?
「グラさんって誰よ?」
「説明するといろいろ難しいんですが、要するに神様です」
「神様あ?」
あれれ、おかしいぞ。神様になったグラさんは僕の想像上の産物で、その設定はセーラちゃんにもまだ話していない。
「丁度いい機会なので、皆さんに紹介して欲しいとグラさんも言っています」
え? え?
ゆらりと空間が歪んで、セーラちゃんの隣にグラさんが姿を現した。
「本当に神様なの? オバケじゃないよね」
怯える女子達。あれ? これって、皆にもグラさんの姿が見えている?
『このとおり、儂は神様じゃよ』
「ホネじゃない! もしかして死神?」
「神様に失礼なことを言ってはなりません! グラさんは死神様ではありませんが、死神様も立派な神様ですからね」
「そうね、皆言葉には気をつけなさい。というか竹ちゃんはしばらく黙ってなさい。神様に不敬があってはなりません。どんな神罰があたるかわかりませんよ」
梅木さんにも見えてるんだ。ということは、神様のグラさんは本物? だとしたら、こんなに嬉しいことはない。
「神罰っていうと、やっぱりブタにされちゃったりする奴?」
竹井は相変わらず馬鹿だなあ。
『フム、お主が身をもって試すがよい』
「待って! タンマ! 謝りますから許してください」
『言葉には、大きな力が宿っておる。不用意に喋る者は、自らの言葉で身を亡ぼすことになる』
「え? あたしブタになるの?」
『ブタにはならんが、通りすがりの死神がお主の寿命を数日削って行きよったな』
「数日くらいなら、ま、いっか。でもやっぱ勿体ないよ。なしに出来ない?」
「竹ちゃん、いい加減黙りなさい!」
梅木さんナイスフォローだ。竹井を喋らせていては駄目だ。
『死神相手に交渉とは、面白いことを言うのう。取り消しはできるやもしれんが、対価は残りの寿命全てかもしれんぞ? それでもやってみるか?』
「……いえ、いいです。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「地球の人達は神様との付き合い方に慣れていないと思いますが、グラさんは優しい神様なので、敬意を持って接すれば怖くないですよ。でも、邪心とかあると神様には丸見えなので、そこは注意してくださいね」
皆の顔が引きつる。そんなの今更なんだよねえ。気づかなかっただけで、この世界は神様でいっぱいなのになあ。
グラさんはその中でも駆け出しの神様だけど、どんな神様でも人間が侮ってはいけない。きっと神様連合から凄い罰が下るよ。
そうか、本当に神様になってたんだ。良かったあ。
瞑想の中での出来事は全て真実なんだろうか? となると、悪のリッチとフュージョンしたのも本当?
グラさんが悪の心に負けなきゃいいけど。