フュージョン
僕がお墓に行き過ぎると、女子達が心配というか呆れていたけれど、毎日通い続けているとそのうち慣れて誰も気にしなくなった。継続は力なりって奴だよ。
別に依存症とか現実逃避とか、そういう後ろ向きな行動じゃない。
瞑想しながら自分の中のグラさんと向き合い、対話し、これからのことを考えるんだ。
死者は忘れ去られた時に本当に死ぬとか良く言うよね。僕の記憶の中のグラさんは、今でも生き生きとしている。骨だけど。
夢の中とかにも良く登場して、賢いアドバイスをくれるんだけれど、夢の中のグラさんは僕の脳が生み出したものであって、つまり僕が賢いということになる?
夢って不思議だね。知らない筈の知識を夢の中でゲットしたりもできるし。
僕の瞑想は、夢をコントロールしようと考えたのがきっかけだ。
寝ている時に見る夢は、見たいものが見れるとは限らないし、夢の記憶はすぐに忘れてしまう。
そういった夢の欠点を補うための瞑想だ。
墓所の中央に、座禅するための板の間を設置した。
何事もまずは形からだ。薄暗い空間で一人座禅を組んでいると、自分が徳の高い僧侶にでもなった気がしてくる。
ポクポクポクポク チーン
心の中で木魚のSEを鳴らす。いわば導入のためのスイッチだ。
心の目を開けると、グラさんが立っていた。
偉い魔導士が着るような立派な衣服を身にまとい、生前より貫禄がある。
『失礼なこと考えとったじゃろ。儂は一応神様じゃぞ』
死ねば仏様と言うし、そういう設定なんだろう。
他にも、悪のリッチとフュージョンして、膨大な知識を得たという設定もある。
意識はほぼグラさんだけど、悪のリッチは神になりたかっただけだから、目的を果たして満足できたみたいだ。
『とにかく、勇者を筆頭に、お前さん達の強すぎる力をなんとかせにゃならんわけだが、古の神々がその面倒事を新米の儂に押し付けやがったのよ』
「でも、フュージョンしちゃったんなら、一応責任者じゃないですか」
『そうなんじゃが、あんにゃろめは気持ちよく意識を手放しやがってのう。儂、貧乏くじじゃ。神様になっても責任ばかり増えていいことないのう』
「だから、僕を教え導いてくださいって」
『やれやれ。いっそ全員を元の世界に弾き返すか? あっちの世界が大変になろうが、儂関係ないし』
「そんなことできるんですか?」
『儂、神様じゃし。いや、実は元の場所に送り返すだけなら、初歩的な魔法で結構簡単にできたみたいでの。いやあ、盲点じゃったわ』
「全てなかったことにするって奴じゃなしに?」
『ああ、あれは神様的にはヤバイ奴でな。巻き戻し系は世界への影響が大き過ぎて無茶怒られる。そうじゃなくて、お前さん達に繋がっている縁を引っ張って、地球にホイッて感じで』
僕の瞑想の産物だから仕方ないけど、このグラさんはちょっとノリが軽過ぎないか?
いや、本物もわりとこんな感じだったかな?
「そんな簡単に? じゃあまず勇者を送り返す魔法を教えてくださいよ。あいつ無茶苦茶するんで皆迷惑してるんです」
『いいけど、あいつ送り返すと地球が大変じゃぞ?』
「え? 地球に戻ってもチートは残ったままなの?」
『そこが難儀なとこじゃのう』
実際はどうなんだろうね?
まあ、僕の想像に過ぎないとしても、グラさんとのお喋りは楽しかった。
墓地を後にする時も、まだグラさんの幻が見えている気がした。