異世界の怪談
「あたし見たのよ。あたし見える人だから」
こんなに訳の分からないことを言う奴は、竹井くらいしかいない。
え? 怪談中? 見える人ってそういう意味なの?
僕も幽霊というか、可哀そうな人達の魂は見たことがあるけれど、そんな話をしようとは思わない。
怪談はフィクションだからいいんだよ? 実話だったら不謹慎過ぎる。死には尊厳が必要なんだ。
竹井の怪談は、僕が作った地下のお墓で幽霊を見たというものだった。立ち入り禁止にしているのにな。
「また約束を破ったね。今度は島から追放って約束だったな」
「約束破ってないし。遠くから見てただけだし。入り口に人魂みたいのが飛んでた」
「え? 本当はそれだけ? 話盛り過ぎよね」
「でも、確かにあの墓所からは強い霊気のようなものを感じるわ。ミー君の恩人のお墓なのよね?」
「それは多分、建材に花崗岩を多用したからよ。花崗岩は電磁波を出して脳波に干渉するの。有名な心霊スポットの多くは、花崗岩が埋まった山の近くなのよ」
女子達は怖い話が苦手な癖に大好きなんだな。いろいろ詳しい。
竹井が作り話をしていたことも判明したけれど、怪談で嘘をついても嘘つきにはならないそうだ。そんなルールがあるとは知らなかった。
「本当は怖い学校の怪談って本の受け売りなんだけどね」
そんなのがあったのか。タイトルだけで怖そうだ。
「ミー君は一人でお墓に行くの怖くないの?」
「別に肝試しに行く訳じゃないからねえ。普通、お墓参りは怖くないよね。というか、お墓で肝試しするのは不謹慎だし失礼だよ」
「うわ、マジメ」
「じゃあ、竹井が死んだら墓で毎日肝試し大会やってやる」
「別にいいかも。寂しくないし。というか、あたしが死ぬ前提?」
死は誰にでも唐突に訪れる。こともある。
その可能性に思い当たったのか、皆考え込んでしまった。たまには真剣に死について考えるのもいいよね。
勇者とかも少しは考えてくれればいいのに、あいつは自分が絶対死なないとでも思ってそうだ。
お墓に供える野の花を摘む。
何故花なんだろうか? お菓子とかもお供えするけれど、まず基本は花だよね。
お墓を作って以来、毎日のようにお参りに来ている。みんなには年寄り臭いと思われているみたいだけれど。
電磁波がどうとか言ってたけど、地下の墓所にいると何故か落ち着くんだ。
暗くなってからだと、確かに入り口の周囲に鬼火が舞っていることもある。
でも、墓を作る前から、夜に発光現象が起きることは良くあった。
電灯のない世界だから、基本夜は真っ暗だし。そういう世界だと僅かな光でも観測が容易になるんだ。
今も無数の火の玉が、僕の周囲を乱舞し、集まって一つになったかと思うとまた細かく散っていく。ホタルの乱舞みたいだ。
多分、プラズマか何かだろうね。
幽霊が出現する前兆現象? グラさんの幽霊だったら会ってみたいよ。