リッチの墓
今更ながら、グラさんのお墓を建てることにした。
グラさんなら、そんなものは必要ないと言うだろうけれど、僕にとって必要なんだ。
墓は死者のためではなく、遺された者のためのものなんだな。
この世界では輪廻転生が信じられているのに墓地があるのも、きっとそういうことなんだろう。
いずれは自分の墓の心配までしなくてはいけないんだろうか? いや、それは子孫の仕事だな。子供どころかまだ結婚もしてないけど。
そうだな、セーラちゃんとの結婚式は、グラさんのお墓の前ですることにしよう。彼女だって嫌とは言わない筈だ。
この世界でグラさんと面識があったのは、僕とセーラちゃんだけだもんな。考えてみれば、リッチを怖がらずに会話できたセーラちゃんは凄く勇気がある。
お墓の様式は、砂漠地帯で見つけた古代の墓所のものを参考にした。
こういうフォーマルなものは、古ければ古いほど有難味が増すもんね。
墓石に使う石は、この星の反対側から良質の花崗岩を運んだ。いつか遠い未来の考古学者がこれを見つけたら、オーパーツ認定するかもしれない。まあ、それを言い出したら、その辺に転がってる竜の化石だって凄いオーパーツだね。あれは場違いにも程がある。
花崗岩をおならカッターで切断すると、鏡のようにツルツルピカピカになる。
慎重に角度を確認しながら、六角錐に仕上げていく。遺跡に残されていた墓標はこんな感じだった。
ああ、長い間風雨に晒され続けると、丈夫な花崗岩であっても少しずつ削られていくな。永遠の存在なんて無いってことを見る者に教えてくれる。
砂漠地帯に大昔の遺跡が良く残っているのも、雨が降らないからだ。そこまで分かっていて、グラさんの墓標を野晒しにはできないな。
鞘堂でも建てて覆うか? いや、建物の寿命なんてもっと短い。良くて数百年だろう。
僕が生きている間無事なら問題ない? それはそれ、これはこれだ。
墓所を地下に作るという手もあるね。近くの島には、生きている竜の化石が地下に埋まってたし、地下はいいよ。
墓前で結婚式を挙げるとなると、それなりの規模の地下墓地になるよなあ。いや、二人きりの結婚式ならその限りにあらずか。
セーラちゃんの意見も聞いてみたいのだけど、それをするとゴールインまでそのまま行っちゃいそうだ。
うーん、もう少しだけモラトリアムを楽しんでいたい気はするね。結婚は人生の墓場だとも言うし。
墓場で結婚式を挙げるとなると、なかなか皮肉がきいているか。僕は皮肉屋じゃないから、そういう要素はいらないんだけどなあ。