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被召喚者の使命

 野村君が北の島に来て、まだそんなに経ってないというのに、あっという間に島の捕虜達の心を掴んでしまった。

 秋山さんが飲みニケーションで築き上げた信頼関係は、意外と大したことなかったんだな。竹井のブートキャンプによる洗脳の方がまだ効果が持続している。

 捕虜達の胃袋を掴んでいる久保はやはり最強だけど、野村君はご褒美無しで支持されているからやはり凄い。

 聖女鈴木の腰巾着のように言われていたけれど、野村君のカリスマもヤバイだろう。人気者とかそういうレベルじゃないし。

 

 船着き場の近くに、かなり本格的な石油タンクが完成している。異世界で良くこんなの作れたなあ。エンジンとか作っちゃってる時点でいろいろおかしいんだけれど。

 どんな仕掛けか知らないけれど、タンクの天井が落し蓋みたいになっている。内部の石油に空気が触れないようにしてるんだな。酸素が無ければ火事にはならないもんな。

 

「どうだい? なかなかのもんだろう?」

 

「うん。いい腕の職人さん達だね。原油を入れちゃっていいかな?」

 

 何トン入るんだろう? というか、まさかトン単位で原油を求められるとは思ってなかった。時間停止させるんでなければ、何万トンだってインベントリに収納できるから別にいいけど。

 

「原油を産み出す能力か……秋山さんが島のメタンガスは君のオナラだって冗談言うから、一瞬本気にしかけたけど、そんなふざけた能力があってなるものか。無から有は生まれない。おそらく地下資源を魔法で転移させているんだな。時空魔法使いか……」

 

 野村君が自分の世界に入ってブツブツ言い始めた。わりとまともかと思っていたけど、やっぱりコイツもやれやれだね。

 うちのクラスって、僕以外まともな常識人はいないのかもしれない。

 

「あとは蒸留塔が完成すれば、すぐにガソリンが手に入るな。重油ボイラーもいくつか作っておきたい。鉄をもっと用意してもらえるだろうか?」

 

 簡単に言ってくれる。この世界じゃ鉄は高価なんだぞ。

 まあ、砂漠地帯で戦車の墓場みたいのを見つけたから、溶かしてインゴットにしてあるけど。考えてみれば、壊れた戦車でも歴史的価値とかあるかもしれなかったんだ。マズかったかもしれない。

 まあ、状態のいいものを何両かコレクション用にとってあるから、それでいいだろう。

 

 鉄塊を積み上げてやると、職人達は狂喜乱舞だ。金貨の山を目の前にした海賊みたいだ。

 自分の体重よりも重いインゴットをひょいひょい抱えて持ち去ってしまう。これから叩いて伸ばして鉄板にするんだろう。粗末な道具だけで良くやるものだ。

 

「フフフ。この島に来て大正解だったよ。こうも早くガソリンエンジンが手に入るとはね」

 

 やっぱりこいつも世界征服とかたくらんでるんだろうか? エンジンで? そんなことできるのか?

 銃なんかに比べると回りくどい気はするね。でも、自動車や飛行機が作れると考えれば、結構チート?

 

「三井寺君、君は召喚者の使命を考えたことがあるかい?」

 

「被召喚者のことかい?」

 

 召喚者は神になりたかったリッチだからね。話の流れからしてそうじゃない。

 

「あ、ああ。正確にはそう言うべきかな。我々がこの世界に呼ばれた訳を知りたいとは思わないか?」

 

 知ってるよ、生贄にするためだ。とりあえず悪の野望は阻止したから、物語はハッピーエンドで終わってるんだ。

 でも、エンディングを迎えたその後も、登場人物達は生きて行かなければならない。今の僕達に使命なんてないよ、日本で高校生していた時と同じだ。自分で生きる意味を探さなくてはいけない。自分探し? なんかそういうの、こっぱずかしいよね。

 

「生きたいように生きればいいと思うよ。なるべく他人様に迷惑をかけない方向で」

 

「やれやれ。いいかい、君にも必ず与えられた使命がある筈なんだ。この世界を良き方向に導く使命が。ただ地球の文明を持ち込めばいいというものではない、現代文明は問題だらけだからね。我々にはやり直しのチャンスが与えられたんだ。わかるかい?」

 

 うーん? 言ってることはわりとまとも? 思い込みの激しさに一抹の不安を感じるけれど。

 

「持続可能な社会を築き上げるためには、中世世界はある意味理想的なんだ。一握りの王侯貴族がその他大勢を支配する。それが正解だよ。全ての人々が平等に贅沢に生きようとすれば、世界はあっという間に喰い尽くされてしまうから」

 

「そりゃあ、近代以前は持続可能な社会だったろうけど、それならこの世界に科学とか必要ないんじゃ?」

 

「だから支配階級が科学を独占する。絶対的な力で反乱も戦争も許さない超科学帝国だ。永遠に平和な理想の世界の誕生だよ」

 

「そんな平和は嫌だなあ。野村君は自分が支配する側だと思うから、そんなことを考えるんだよ」

 

「当然だろう? 君だって支配する側の人間なんだ。何か不満でもあるかい?」

 

「支配される側の人達が可哀そうじゃないか」

 

「心配ない。元々この世界の人間達の大多数は、悲惨な生活を送っているんだよ。つまり、これまでと何も変わらないんだ」

 

 あれ? 言いくるめられそうになっている。頭のいい奴はズルいなあ。

 でも、上手く言えないけど僕の意見は違うんだ。グラさんなら、きっと上手く言葉にしてくれたと思う。

 

 とにかく、野村君に資材を提供し過ぎるとヤバイことがわかった。これ以上はセーブすることにしよう。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 野村君はミー君と話し合うチャンスだったのに言いくるめを使用してしまったんだなあ
[良い点] 後からやって来てなかなか図々しい野村。聖女の元ではNo.2に甘んじていたがそれだけに「選ばれし者」感はとても強かった模様。 カリスマに実行力もある。面倒な勘違い「被」召喚者だ。 [一言] …
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