亡命者たち
「野村君達が亡命して来たって本当?」
女子達が大はしゃぎだ。
まあ、野村君はクラスで一番モテモテだったからね。成績が良くてスポーツもできてイケメンで、三拍子揃ってモテない訳がない。性格はちょっとアレなとこあるけど、勇者になった須田なんかに比べればだいぶマシだ。
ラノベなんかのクラス転移もののパターンだと、野村君が勇者枠なんだけどな。勇者じゃなかったにせよ、軍師という当たりジョブだ。リア充爆発させてやろうか。
いかん、駄目だ。危うくおならの暗黒面に飲み込まれるところだった。ヒッヒッフー 僕は冷静だ。
「うん、まあ、亡命してきたクラスメイトは野村君一人で、他は彼の部下みたいだけど」
僅かな情報だけを頼りに、大型船を借り切って島まで乗り込んで来たんだから大したもんだ。さすが軍師だね。
情報の流出元は秋山さんだろうな。こっそり小舟で近くの町に繰り出しているのは知っている。
わざと放置していたのは、北の島が本来は囮用だからだ。野村君を一本釣りできたんだから結果オーライだ。
「野村君はあっちの島で暮らすの?」
「聖女グループ内で内輪もめがあったみたいだけれど、いきなり信頼しちゃうのは危険だからね」
「野村君、あんなに鈴木さんに尽くしてたのに可哀そう」
「鈴木に野村は勿体ないよね。よし、あたしが唾つけた!」
「何勝手に決めてるのよ! それに野村君だって、以前の野村君と違うんだからね」
やっぱり、野村君を巡ってラブコメが始まるんだろうか? 始まるんだろうなあ、別にいいけど。
「何? ミー君ヤキモチ?」
「ミー君は受けよね?」
「腐ってやがる。ミー君を汚さないで!」
姦しいなあ。楽しそうでいいですね。
そんなことより野村君の連れて来た職人達だ。アルコールで動くエンジンを持ち込んで来た。
竜骸が大量生産されている世界で、原チャリ程度のエンジンがどの程度の価値を持つのかわからない。
でも、彼らはエンジンを作ること自体が目的になっているようだった。
そういえば、野村君は自動車マニアだった。普段はポーカーフェイスなのに、レースの話とか熱く語ってたもん。
クラスの男子達もF1レースくらいしか知らないから、ちょっと浮いてたけどね。カートのレースとか、マニアック過ぎて良く分からないし。
ラジコンカーだって普通は電動だよ? 野村君はエンジンで動くのを自作しているみたいだった。
異世界に来て、一からエンジンとか作っちゃうんだから、大したもんだと思う。軍師のジョブとか関係ないのが勿体ないけど。
アルコールならあっちの島には売るほどあるんだけれど、それについては秋山さん達と対立しそうだ。何しろ、飲むために作ってるんだからな。
でも、メタンガスのボンベを見せると目の色が変わった。少し改造すれば、ガスでもエンジンって動かせるらしい。ガスならいくらでもあるぞ。
あと、灯油を精製する時に、副産物としてできるガソリンの処分先が見つかったかもしれない。
というか、灯油以外全部捨ててるので有効活用して欲しい。野村君なら重油ボイラーとか作れるだろうし、プラスチックとかもできるかも?
原油の精製は匂いがキツイので、女子達が怒るんだけど、北の島でやる分には問題ない。
よし、ガソリンをエサに石油関係を丸投げしてしまおう。野村君が石油王になる日も近いよ。
あれ? そうなると、絶対野村君が主人公じゃないか。まあ、別にいいか。
軍師なんだから、勇者対策も丸投げできそうだし。
僕はセーラちゃんと二人で、グラさんの墓を守りながらこの島で静かに暮らすさ。
あ、そういえば、グラさんのお墓って作ってなかった。光の中に消えちゃったから、お骨も残ってないもんなあ。