愛の奇跡
「少女の愛が奇跡を起こすのよ」
うんん? 吉田は何を言ってるんだ?
そういう乙女チックな発言とは、一番縁遠いのが吉田じゃないか。プリンのことだけ考えていればいいんだよ。いや、さすがにそれは口にしちゃいけないな。
「ちょっと意味が分からないので、詳しく説明プリーズ」
「えー、分かんないかなあ? ミー君ならエスパーできると思ったのに」
随分無茶なことを言う。
異世界だから心を読む能力とかあってもおかしくはないけれど、僕ができるのはおならを使うことだけだ。
読心おなら? さすがに無理筋もいいとこだ。ああ、でも、自白効果のあるおならとかならワンチャンあるかもしれない。
「仕方ないから一から説明してあげるわ」
なんでも、勇者須田に彼女ができたらしい。セーラちゃんより幼い少女で、勇者は彼女に首ったけの状況とのこと。
「人探しの魔法って、そんな細かいこともわかるんだ」
「最近レベルアップしてるから、魔法も進化したのよ。そんなことより、ほっこりしない? あの須田君がねえ。女の子を好きになって思いやりの心を覚えたら、少しはマシになるかもよ」
何気に須田のことを凄くディスってる。本人が聞いたら落ち込むだろうなあ。
僕だって皆におなら男とかさんざん言われていたみたいだけど、知らぬが仏だ。知ってたら精神的に再起不能になっていたかもしれない。
うーん、吉田の魔法はヤバくないかな? 誰かが吉田の陰口を言って、それを盗聴したとする。内容にもよるだろうけど、メンタルに大ダメージだよ。
「悪人が何かのきっかけで善人になるとか、良くある話だし。いいんじゃないの?」
「そうよね、ダメ元だし。それに、ここんとこコイバナとは縁が無かったから、なんかほっこりするのよねえ。生温かく見守ることにするわ」
そうだなあ。日本にいた時はあらゆるメディアにラブが氾濫していたけれど、この島にはそういうの無いからなあ。
僕はセーラちゃんと婚約していることになっているので、売約済みだ。
秋山さんは既婚者でオッサンで、おまけにこのところ株を下げるようなことばかりしているから、女子達からの人気は急降下している。
カップルが成立する余地がないんじゃ、コイバナとやらの出る幕はないんだよ。
ああ、でも、この世界に永住するつもりなら、呑気にしてもいられないのか。
梅木さんを除けば女子達は二十歳にもなっていないので、余裕をかましているけれど、この世界ではセーラちゃんくらいが適齢期だ。
夫に先立たれたリシアさんは当然既婚者だし、イステアは二十歳前だけど行き遅れ扱い、ライルやクッコロトリオも似たようなものだ。
女戦士の定めか……カッシャが女を捨てた云々と言っていたけれど、生半可な覚悟でできることじゃないらしい。
結婚が全てじゃないけれど、子孫を残せないのは悲しいかなあ。特に僕達だと天涯孤独になってしまう。
吉田も勇者なんか見守ってないで、自分の恋を探そうよ?
この島じゃ出会いがない? 問題はそこなんだよなあ。
かといって人間の街まで遊びに行っても、住民の七割半くらいは筋金入りの悪党だしなあ。むしろ善人とか生きていくのが難しい世界だし。
田舎は朴訥な人間が多い? いやいや、アイナ婆さんだって生き馬の目を抜くくらいしたたかだし。村人達だって相当なもんだ。僕達に力と金があるから上手く付き合えるけど。
日本って相当な温室だったんだ。温室育ちの僕達が、この世界でなんとか生きていけるのはチートのおかげだ。
問題は、チートが遺伝するかだよな。僕達の子孫がチートなしで生き延びるためには、幼い頃から相当なスパルタ教育が必要になる。リアルチートは努力を裏切らない? なんかそういうやつだ。
「どしたのミー君? 怖い顔して」
「コイバナとか言ってる場合じゃないし。スパルタ教育なんだ」
「まあ、そうなるよねえ」
え? 今ので分かったの? 本当にコイツ、エスパーかもしれない。