秘密の女子会
最近、夕食後に女子達が女子会を開いているようだ。
まあ、グラさん島には男は僕と秋山さんしかいない訳で、集まって何かをすれば高確率で女子会だろうね。
早寝早起きのセーラちゃんは、夜が弱いから参加していないようだ。昼食後のお昼寝タイムもしっかり寝ているので、起きている時間より寝ている時間の方が長い。
寝る子は育つというのは本当で、最近凄い勢いで成長している。このままのペースが続けば、数年で身長を抜かされるかもしれない。
僕の方は、ほとんど背が伸びなくなった。現実は厳しいね。
まあ、最近はほぼ座高しか伸びてなかったから、別にいいけどね。どうもうちの家系は足から伸びるみたいで、中学生の頃は両親より足が長くなりそうだと喜んでいたんだけど、最終的にはカエルの子はカエルだった。
まったく、人間というのは業が深い。飢える心配が無くなれば、今度は際限なく快適な暮らしを求める。
挙句の果てに、今度は足の長さの心配? ニキビを気にしている女子達を笑えないよ。
ニキビやソバカスなんて、そんなに気にしなくても、泣きボクロみたいなもので可愛いと思うんだけれど、うっかりそんなことを口にすれば凄く怒られる。
怖いから、関わらずにさっさと寝てしまおう。
「夜のおやつターイム!」
灯油ランプを囲んで今宵も女子会が始まる。
「竹ちゃん、それってまさかお酒?」
「ここは日本じゃないし、治外法権? それにどうせもうすぐハタチだしー」
「それ治外法権の使い方間違ってるし。梅姉さんにバレたら叱られるよ」
「その時はオッサンがくれたって正直に謝るし」
「うわー、竹ちゃん策士」
「いいのよ。オッサンの武勇伝さんざん聞かされてムカついたし」
「武勇伝?」
「若い頃ヤンチャしてたんだって。酒で女の子酔い潰して、とっかえひっかえお持ち帰りしてたって」
「うわあ」
「サイアク」
「でもどうせ嘘じゃない? あいつにそんな度胸なさそうだし」
「だから酔い潰すんじゃない?」
「あいつ、真面目だけが取り柄だと思ってたのに」
「昔は美形のチャラ男だったんだって。ホスト目指してたんだって」
「目指すだけなら誰でもできるし」
「あたしがハリウッドスター目指す方がまだ現実的よね」
新作のババロアを食べながら、言いたい放題の女子会は続く。
「でさあ、48号とかちょっといいと思わない?」
「あんた、ああいうのが趣味なの? あいつ、顔がちょっといいだけで、性格悪いよー」
「あたしらの方が強いんだからさ、見た目さえ良ければなんとでもならない?」
「オシオキするの? いいね」
「いや、それだったら、もっと良さそうな美少年がいるでしょ? メガネザルっぽい」
「ああ、64号ね。あいつヘタレ過ぎて笑うよ。兵隊に向いてないし、畑仕事も駄目。食事当番もまともにできないし」
「それは、ちょっと。ヒモにもなれないね」
「ヒモってかなりスペックいるよね。私だったらハンパな奴は追い出すし」
「ダメンズ好きもいるんじゃない?」
「高望みはしないけど、自分のスペックより低い相手は嫌よねえ」
「いや、こんな時に真面目かよ? お酒、飲んでみる?」
「やだよ。オッサンが媚薬とか仕込んでそうで怖いし」
その一言で、せっかくの酒壺は、まるで汚いもののように放置されるのだった。
「やっぱり日本人は緑茶よね」
「ねえ知ってる? ぼた餅とおはぎって、呼び方が違うだけでモノは同じなんだよ」
「おはぎの中にイチゴとか入れるのどうかしら?」
「イチゴおはぎって普通にあるから」
しばしの間、黙々とおはぎを食べる一同。
「セーラちゃん、綺麗になってきたよね」
「可愛い子が、美人になるってズルくない?」
「うちの従妹、子役にスカウトされるくらい可愛かったけど、大きくなったら普通だった」
「ミー君とやることやってるのかなあ? 自称妻だし」
「ないない。だいたい、羽山っちにバレるじゃない」
「私は、そんな覗き見みたいなこと……」
「いやいや、しっかり見張ってなさいよ」
「でも、もう時間の問題だと思う。美人で背も高くて胸も立派とか、何よあの完璧人間は!」
「完璧かなあ? 虫を食べるのは玉に瑕じゃない?」
「ミー君は我慢して食べてるし。バッタは少し美味しかった……」
「ミー君はあたし達が育てたのよ! 横取りされたみたいで腹が立つのよ」
「え? 育ててたの?」
いつ果てることなく続くガールズトークは、梅木の乱入によって終止符をうたれる。
「ほらほら、あんた達はいつまで夜更かししてるの! 明日も朝早いんだから、さっさと寝なさい」
女子会の後片付けはかなり適当だった。明日の朝食にも使う場所なので、最後に梅木がぼやきながら掃除をする。
「まったく。あの子達ったら、いくつになっても子供なんだから」
甘やかし過ぎだろうか? もう少し厳しく接するべきだろうか? だが、自分も同年代の頃は似たようなものだったかと思いなおすのだった。