正義の勇者
村が燃えていた。
「男は皆殺しだ! 女は犯してから皆殺しだ!!」
そう叫びながら暴れている盗賊達の格好は、村人とそう変わらない。実際、見分けがつかず、同士討ちで仲間に殺される者もいる。
持っている武器も貧弱で、大半が棍棒である。数を頼りに力任せに振り回すだけ。
「まったく、見苦しい馬鹿どもだな」
勇者須田は、村が蹂躙されていく様子を冷静に観察していた。
クラスメイトがいないなら興味はない。
「ここもハズレか。為政者が無能だから悪がはびこる。どこに行っても悪党だらけじゃないか」
金田がこの辺りに逃げ込んだのであれば、再び盗賊達を束ねて一大勢力を築いていると予想していたのだが。
「馬鹿の金田も少しは成長したか? 僕を恐れて目立つ行動は避けているようだな。吉田でもいれば少しは役に立ったんだが」
そういえば、聖女グループの中に吉田は見かけなかった。死んだのか? モブにとっては命の軽い世界だ。
「誰か! 誰か助けて」
必死で逃げる少女を、男達がゲラゲラ笑いながら追いかける。
楽しかった。無抵抗の相手を、安全にいたぶれる。自分達が強者になった気がした。
「誰も来ねえよなあ。安心しな、散々いたぶって、朝までには殺してやるから」
「ちょこまか逃げたって、どうせ子供一人じゃ生きていけねえんだぞ。鬼ごっこもいい加減飽きてきたよなあ」
一人が少女に向かって石を投げ始めると、皆面白がって真似をし始める。
「痛っ」
足を打たれ、転倒する少女。必死で跳ね起きようとするが、小さな身体はとっくに限界を超えていた。
「へへ、手間かけさせやがって。今からもっと痛くしてやるからよお。へぶっ!」
少女に襲い掛かろうとした盗賊の体が、斜めにズレて崩れ落ちる。
「騎士様?」
おとぎ話の騎士のような、立派な身なりの少年が、抜身の剣を片手に少女を護るように立ち塞がった。
「ひでえ、殺しやがった!」
「こいつ、何者だ!」
「そうだな。通りすがりの正義の味方、とでも言っておこうか」
お気に入りのアニメの声優の真似をして、須田はカッコよく台詞を言ったつもりだった。
この場にクラスメイトがいればいろいろツッコまれただろうが、気にしない。どうせ皆殺しだ。
面倒臭いので盗賊達は放置するつもりだったが、せっかくの絵に描いたようなシチュエーションだ。遊び心が疼いた。
「あ、相手はたった一人だっ! やっちまえっ」
「へえ、セリフまでテンプレなんだ」
棍棒を振り回しながら、へっぴり腰で突っ込んで来る盗賊達。
「これは酷い。チートなしでも余裕で勝てたな」
須田が剣を振るたびに、スパンスパンと首が飛ばされていく。
一瞬で不利を悟った盗賊達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「あ、ありがとうございます。正義の味方様」
『ふーん、子供は愛らしいじゃないか。この世界の女はアメコミキャラみたいで僕好みじゃなかったけど』
場合によっては少女も始末しようと考えていたのだが、須田は方針を変えた。
何より純粋な感謝と賞賛の視線が、くすぐったくて心地よかったのだ。