ヒーローは孤独だ
夢を見た。
白い部屋で白い服を着た偉い存在と何か話した気がする。内容はほとんど忘れちゃったけど。目が覚めた直後は全部しっかり覚えてたんだけどなあ。
若年性健忘症だろうか? 記憶喪失と言えばカッコイイけどね。世の中って言い方が八割だよね。
大事なのは、なんか凄い称号を授かったってことだ。
『ヒーローは孤独だ』
なんかふざけた称号だけど、効果は凄いよ。簡単にいえばソロプレイ時に無茶苦茶バフがかかる。干物トリオのバフと比べても遜色ないくらいに。
そして、この称号の効果には、まだまだ伸びしろがある。世のため人のため、誰にも知られず報われぬ戦いを続けていれば、熟練値のようなものが蓄積されていく仕様だ。
守るべき対象から、理不尽に批難されたりするのも高得点だ。
不遇職で頑張った僕への神様からのご褒美? いや、ジョブ自体は不遇とか思ってないよ。使い勝手のいい魔法が結構あるし、おならマスターは断じてハズレではない。
ただ、おならというだけで、ジョブの性能がどれ程素晴らしくても嘲笑の対象になるんだよ。それが、おなら使いの宿命。
この先僕がどんなに強くなっても、たとえ世界を救ったとしても、おならというだけで馬鹿にされ続ける。これはもう呪いだ。
貰った称号は、神様からのせめてものフォローなのか? なんか白い部屋でそんな話をしてたような気もする。思い出せないのがもどかしい。
昨日は絶体絶命の危機だったけど、吉田の機転でなんとか救われた。
要するに、おならという言葉を使わなければいいんだよ。メタンがどうとか言ってたな。やっぱり吉田は偏差値高いよ。誰とは言わないけど、偏差値高い馬鹿もいるけど。
ともあれ、称号のおかげで頑張れそうな気がする。竹井に酷いこと言われたって、熟練値稼ぎだと思えば耐えられると思う。
できれば僕だけに見える形で、熟練値が入ってるのが見えると有難いんだけどね。そういうのゲームとかであるじゃない? 何かするたびに数字がポップするやつ。ああいうのってモチベの維持にいいと思う。
現実は、そういうのが何もないから辛いんだ。
皆との朝食は普通だった。いつも通りだった。
秋山さんまで何もなかった顔をしている。大人はいいね、酒の上での不始末ってことで誤魔化せるんだから。
悪意を持って僕を貶めようとしたのか。それとも、思いついたことをそのまま口にしてしまう天然なのか?
まあ、どっちでもいいや。どっちにしても、この人にあまり大事なことは任せられない。秋山さんに対する僕の評価は下がった。
竹井の奴も、けろっとしている。コイツは元々、弱い者虐めの常習犯で、しかも自覚無しだから反省もしない。いつか刺されると思う。
梅木さんの教育で、最近は多少更生したのかと見直していたけれど、やっぱり竹井は竹井だった。
まあ、この世界では悪人でも普通に生きていける。正直者が馬鹿をみるのは、万国共通ってことか?
でも僕は、悪人より正直者が好きだな。
北の島で皆を降ろして、アイナ村までは一人で飛ぶ。
称号の効果が発動して凄いことになってる。喜ぶべきことではあるんだろうけどね。
別に、これ以上の強さを求めちゃいないんだ。
普通に生きていけるだけの力があれば、それでいい。
あー、でも、勇者がいるからなあ。須田に殺されないためには、ひょっとしてもっと強くなる必要がある?
あいつって世界最強とか言ってなかった? 世界最強に勝たないと生き残れないとか、迷惑だ。本当に勘弁して欲しい。