暴かれた秘密
今日も一日が終わった。なんだかんだで、いろいろ忙しかったけど、働いた充実感はある。
オープンテラスで皆揃っての夕食。
そういえば、最近少し日が短くなってきた。グラさん島は結構南国っぽいので、冬とかあんまり関係ないけど。沖縄とか奄美とか、そんな感じ?
魔法の灯りもいいけれど、最近は灯油の精製も上手くいくようになってきたので、石油ランプに火を灯す。歪んだガラスのホヤの中で、ゆらゆら揺れる炎が幻想的でいい雰囲気だ。
灯油はこうして利用価値あるけど、余ったガソリンが問題なんだよね。火炎瓶用に確保してあるけど、保管もするのも危険が伴う。
今日のメニューはシイラのムニエルにカニクリームコロッケ。梅木さんは少し失敗したと言っていたけれど、なかなかのものだ。久保の料理と比べてはいけない。
「それで、聖女教団もアルコールの蒸留に成功したのよね。最初は消毒用として広めて、その後で燃料用として一気に普及させる。なかなか考えたわね」
吉田は何故か悔しそうだ。
「燃料用? 採算がとれないんじゃないか?」
秋山さんも悔しそうだ。蒸留酒の製造を始めたばかりだもんね。今もチビチビと一人で晩酌を楽しんでいる。梅木さんにも勧めていたけど、きっぱりと断られていた。
「信者には薪より安い価格で売ってるのよ。手の中に入るくらい小さなバーナーも一緒に」
教団のアルコールバーナーは、キャンプとかで見かける奴とほとんど変わらない。シンプルな構造なので、板金加工できる職人なら容易に作れるだろう。むしろ装飾に手間をかけている感じだった。
聖女教団の勢力圏では急速に貨幣経済が発達している。信者にはいくらでも仕事があるし、治安もいいみたいだ。
犯罪者は信者達に寄ってたかって半殺しにされて、教団の審問にかけられるからね。そりゃあ治安も良くなるだろう。
教団のために戦って負傷しても、聖女が完治させてくれるし、死んでも天国に行けると信じている。だから信者達は怖いもの無しだ。
僕も気になって偵察に行ってみたけれど、正直、信者にならない限り潜入するのは難しいよ。
「アルコールが何よ! こっちは油田を確保してんだからね! 負けないわよ」
竹井は相当に鈴木のことが嫌いみたいだ。多分、逆恨みだ。
あと、油田開発は僕が趣味でやってるだけだ。なんで竹井が偉そうなんだよ。
「あー、そういえば、調理で使ってるガスな。あれって三井寺君のオナラだろ? メタンガス」
秋山さんが突然、僕の秘密をぶちまける。得意そうに笑っている。鬼の首でもとったように。
サーッと血の気が引いて、クラっとした。そりゃあ、いつかはバレると覚悟してたけど、なんで今なんだよ。
「えー、ウッソー! オナラって、キモッ」
周囲の空気が凍りつく。竹井の残酷な言葉が、ナイフのように僕の心をズタボロにする。
「何を今更って感じね。ミー君の能力は、気体を自在に操る力よ。メタンは炭素原子に4つの水素原子がくっついた最も単純なアルカンだから、最初に作れて当然。レベルが上がればプロパンとかブタンだって作れるようになるわよ」
吉田は何を言ってるんだろう? 化学の話だよね? 分子式って苦手だよ。僕をフォローしようとしてくれているのは理解できた。
「いや、でも、賢王の手下の魔法使いも言ってたじゃないか。三井寺君はオナラ使いだって。皆も笑ってただろう?」
「化学の知識がない人間が、唯一知っているガスがオナラだったんでしょうね。秋山さんは今更そんな話を持ち出して、ミー君を貶めたいの?」
「うっわー、オッサン最悪!」
竹井の矛先が今度は秋山さんに向かう。まったく、こいつときたら。
「だけど、ホラ、おならで空を飛べるって、マンガとかじゃ良くあるじゃないか」
「そんなの昭和の頃のマンガの話でしょ? 実際に空を飛ぶのに、どれだけオナラが必要だと思ってるの? ちょっと計算すれば有り得ないってわかるわよ」
計算したんだ。
まあ、実際におなら魔法で空を飛んでるんだけどね。
とにかく吉田のおかげで助かったよ。
秋山さんは酒を浴びるように飲んで酔いつぶれてしまい、すぐに皆はそんな話があったことすら忘れてしまった。
覚悟はしていた筈だったんだけどな。
やっぱり、おならはカッコ悪いんだ。
どんなに皆の役に立ったとしても、おならというだけで蔑まれる。
それでも、この世界で生きるためには必要な力だ。
明日からもおならで頑張ろう。