異世界アッシー君
どうしてこうなったんだろう?
捕虜収容所を建てたら、久保が再教育施設とか言い出して、秋山さんが労働力ゲットだぜとか喜んで、竹井の奴がブートキャンプごっこを始めた。
おかげで三人は北の島に毎日何度も顔を出す。送迎させられる僕や赤松の身にもなって欲しい。
グラさん島での秋山さんの農業は、セーラちゃんが完全に引き継いでしまった。といっても基本放置だけど。なんかセーラちゃんもかなりレベルが上がってるみたいで、地母神の恵みが全島に溢れている。
異世界チートって現地の人にも伝染するんだろうか?
竹井が干物づくりをサボるのは良くあることなので、そっちは問題ないのだけれど、遊び相手がいなくなったコロを構ってやらなくてはいけない。
僕も忙しいので、コロを教官に任命してアイナ村に常駐させることにした。クッコロトリオは訓練好きだし、イステアやライルも常にライバルを求めている。リシアさんも向上心が高い。要するに、コロの遊び相手に事欠かない。
「ミー様がいてくださると、竜骸をすぐ修理して頂けるので、いろいろ捗ります」
カッシャがそう言って顔を赤らめる。何故だ?
「神の国では修理してもらえなかったの?」
「いえ、できないという訳ではないのですが、ちょっとしたことで始末書の山でした。訓練している時間の何百倍も書類と戦っていました」
へえ、異世界でも始末書ってあるんだね。羊皮紙って消しゴムとかないから、ナイフで書き損じた所を薄く削っていくんだけど、そういえばカッシャはやたらナイフの扱いが上手かった。鶏肉の筋取りの天才かと思ったよ。
「あ、私、今、神の国って言っちゃいました? 言ってませんよね?」
急にあたふたし始める。何を今更。
「いや、隠してるつもりだったの? やっぱり国への忠誠心とか?」
「いえ、今更あんな国のことなど。ただ、上司への恩義がありまして」
ひたすら愚痴を聞かされた。飲み屋のオヤジになった気分だった。酒じゃなく甘味を出してあげた。
久保が抜けた穴を、他の女子達が埋めることになった。元々自分達でやっていたことなので、特に問題はないかと思われたのだが、主にクオリティの面でヤバかった。
短い期間なのに、僕達の舌は思ったより肥えてしまっていたようだ。
久保はヤバい。麻薬並みに依存症があるのではないか?
花村が吉田とタッグを組んで頑張ってくれているが、果たして? 吉田は味見するだけなんだけれど、召喚チート関係なく、神の舌は天性のものみたいだ。日本にいれば料理評論家として大成したかもしれないな。
「洗脳といっても大層なことではない。圧倒的な武力でねじ伏せた後で、そこそこの食事を食わせて、それっぽい言葉を教えてやれば、後は勝手に洗脳されていく」
「何も考えられなくなるまで肉体を虐め抜くのよ。それで自分達が強くなっていると気づけば、後は喜んで指示に従うようになるわ」
「お預けを覚えさせれば、その後のしつけは簡単です。体罰を与えるのではなく餌で仕込む。それが調教の極意だと思います」
送迎の間、秋山さん達三人の会話がヤバいんだけど。それも日に日にヤバさを増していく。
僕と赤松は、なるべく関わらないようにしている。
なんだかんだで便利な足として利用されてるよね。まあ、空飛ぶ絨毯機能のために赤松だって一緒に付き合わされてるんだし、僕だけが文句を言う訳にもいかない。
それにしても、北の島の食事風景がヤバいね。ただのジャガイモのスープ? シチュー?
見た目はポタージュスープっぽいそれを、元捕虜達が神の食事のごとく超有難がって食べている。
材料は、ジャガイモと、塩と、水だけの筈なんだけどなあ。あと、余った野菜や肉? 凄く普通なんだけど。
料理の魔法って、一体?