平和のシ者
結局、全員で乗り込むことにした。
秋山さんが、戦力の逐次投入は愚策だとか言ったのもあるけど、せっかくの機会なので、皆に直接見て経験して欲しかったというのもある。
綺麗ごとでは済まないこの世界の現実って奴を。
見た目で舐められてはいけないとセーラちゃんが言うので、以前商会ごっこをした時の衣装を身に着けた。
女子達は男装していることもあり、怪しげな劇団みたいになるのは仕方ない。ビシッとキマッテるのはセーラちゃんくらいのものだ。
村に入った途端、短槍で武装した兵士達に囲まれてしまう。
「この島の原住民どもか。どこに隠れてた?」
「未開の蛮族の分際で、俺達より立派な服を着ているとは許せんなあ。身ぐるみ剥ぎ取ってやる」
ゲラゲラ笑いながら、槍でツンツン突いて来る。赤松の結界で守られているからいいようなものの、普通は冗談で済まないぞ。
「なんだこいつら。生意気に鎖帷子でも着込んでやがるのか?」
「なら顔を狙え。目玉をえぐり取ってやる。醜い平たい顔の蛮族め」
なんかもう、専守防衛で殺しちゃっていいよね?
「武器を向けるのはおよしなさい! 私達は話し合いに来たのです」
お、久保はわりと勇気があるぞ。足がガクガク震えて止まらないみたいだけれど、武者ぶるい?
大丈夫だ。僕らにはチートがあるからね。この程度の雑兵相手なら、包丁二刀流で暴れ回るだけで無双できるよ。
「なんだ騒々しい。伯爵閣下のお食事の最中だと言うのに」
あ、なんか隊長風味の人が来た。
「私達は平和に話し合うために来ました」
「近づくな汚らわしい。何をしている? 島の人間は一人残らずさっさと殺せ」
「戦いは何も生みだしません。言葉が通じるんですから、話し合って仲良くなりしょう」
久保は必死だけれど、まるで相手にされてないな。
「何をぐずぐずしているウボウボ卿。私は退屈しておる。せっかくの余興じゃ、蛮族の王と決闘せよ。正当な手段で島を我が領地とするのじゃ」
お、馬鹿貴族っぽいの来た。
「決闘で勝った方が正当な島の持ち主になるって、無茶苦茶だよね。そもそも僕達に何のメリットもないし」
「やはり蛮族は愚かだな。どのみちお前達は全員殺す。伯爵閣下の無聊をお慰めできるのだから、蛮族風情には過ぎたる光栄だと思え」
「ハイハイ。で、あんたと戦えばいいのか? 武器は何?」
「戦うのは王国一の剣士ムソムソだ。安心しろ、すぐには殺さん。閣下が飽きられるまでいたぶってやれ」
ムソムソは見るからに歴戦の勇士って感じの、傷だらけの筋肉ダルマだった。
「なあ、あんた。もうすぐ僕達二人のどちらかが死ぬことになる。個人的な恨みはないが、不思議なめぐりあわせだな」
「糞虫があっ! テメエの頭カチ割って、ピーでピーしてやらああっ!!」
会話が成り立たない人みたいだった。
剣で戦うなら、魔剣を出すかな? 首を刎ねて一瞬で終わっちゃうなあ。
とか思っていたら、安ピカものの長剣を渡された。なまくらとかそういうレベルじゃないよ。刃はついてないし、なんかグラグラするし、やすりで傷まで入れてある。
まあいいけどさ。
「確認しとくけど、殺しちゃっていいんだね? 僕が勝ったら大人しく島から出て行って二度と近寄らないこと。あと、壊したものの賠償金はきちんと支払うこと」
「フホホホ。王国貴族の言葉を疑うとは、さすが蛮族は愚かよのう」
自分達が負けるなんてまったく考えてなさそうだね。
剣の試合なんて、剣道とそう変わらない。違うのは一礼している間に斬りかかって来ちゃうこと。
この剣じゃできることはしれてるんだよね。相手の剣を受けても弾いても折れる。振るだけで折れる。
なら、突き一択だよ。剣先は丸くなってるけど、仮にも鉄製だ。
ムソムソの誘いとか無視して、一撃に全てをかける。ただ一直線に、高速の突き。あ、音速超えた。
剣は折れてしまったけれど、破片はムソムソの胸板を貫通してすっ飛んで行った。ソニックブームだけでもかなりの破壊力で、結界に守られていない連中は全員それなりの被害を受けている。
「卑怯な! 剣の試合で魔法を使いおって! クロスボウで射殺してやるわ! 蛮族は知らんだろうな、この最新兵器を」
隊長さんが手を振ると、兵達がクロスボウを構える。
「いや、それって結構古い武器だからね。あんたの国おっくれてるー」
煽られてキレたのか、兵の一人がトリガーを引いた。飛んでくる矢を二本指でつまむ。結界で止まったのをつまんだだけなんだけどね。
「ラピュタ神剣に飛び道具は効かぬ」
そのままクルリと矢を反転させ、デコピンの要領で弾く。射手の眉間に突き立った。
「そんな……馬鹿な……」
「に、逃げろー」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく。馬鹿貴族っぽい人は、太ってるのに驚くほど速かった。
とりあえずゆっくり歩いて追いかける。
二人も殺してしまったな。このまま逃げてくれるならいいけど、今度は艦隊で報復に来るかもしれない。
「フハハハハハ! 見せてやろう! 我が魔導砲の威力を! 今度こそ一人残らず焼き払ってやるわ!」
船から槍のような武器が突き出され、火の玉を飛ばして来た。うーん、微妙?
クッコロトリオの魔法の杖の劣化版かなあ。せっかく船に積めるんだから、もっと威力を上げればいいのに。
「どうします? あの船」
「もう殺しちゃってください、あんな人達。蛮族、蛮族って、差別主義者ですよ。生きてる価値ないですよ」
久保からのOKが出たぞ。
「あのヘナチョコ弾が自慢みたいだから、プライドをへし折ってやればいいのよ。沖にでっかいのをぶち込んでやろうよ。威嚇射撃?」
「まあ、この辺りの海は魚もほとんどいないしね」
あくまで威嚇目的なので、ちょっと工夫する。
おなら火炎放射で炎の竜を生み出し、ゆっくり船の上を飛び越えさせて沖合に落下させる。そこでおなら気化爆弾だ。
竜を見て船員達が大騒ぎしていたまでは良かったんだよ。
「え? バフかかってたの?」
閃光。そして襲い来る衝撃波。
計算が狂ったなあ。おなら気化爆弾はただでさえ最近威力が上がり気味なのに、バフなんかかかってたらヤバイことになるよ。
正直、この魔法は対勇者戦くらいでしか使い様がないと思う。
赤松の結界のおかげで僕達は大丈夫だったけれど、船は吹き飛ばされて陸地に乗り上げてしまった。
完全にバラバラにならなかったのは、さすが軍艦と言うべきか。
「ああっ、ジャガイモ畑があっ!」
台風が通り過ぎたあとみたいになってるね。イモは地面の中なんだし、大丈夫なんじゃないの?