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踊る小田原評定

「それでは、第四回軍艦対策会議を始めます」

 

 司会は梅木さんみたいだ。妥当な人選だと思う。軍艦対策ってネーミングはちょっと変だけど。

 

「え? 第二回じゃないの?」

 

 赤松がわりとどうでもいい所にツッコミを入れる。

 

「ミー君達が出かけた後に、会議しちゃってました」

 

「どうせプリンとか食べてただけでしょうに」

 

「何故わかった?」

 

 緊張感ないなあ。

 それで今回のおやつはチーズケーキとアイスティーみたいだ。

 普段はおやつはおやつタイムと食後のデザートだけなので、特別感はあるね。

 

 まず羽山が敵の状況を報告し、赤松と僕が地下要塞を作った件を発表する。

 

「あたしらの別荘を滅茶苦茶にして! ギルティよ! 皆殺しよ! まず船を吹き飛ばして、島に閉じ込めた悪党を一人ずつ始末するわよ」

 

 安定の竹井。

 

「野荒しは許せんが、立派な軍艦を沈めてしまうことはない。損害賠償として接収しようか。帆柱を切り落として、兵隊は沖の離れ小島にでも幽閉しよう」

 

 秋山さんは、絶対酒目当てだろうね。

 まあ、軍艦は売り飛ばすのもよし、バラして木材にするもよし。相手が資産的なものを持ってるのはいいね。こないだの海賊とかスカンピンだったし、勝手に全員死んじゃうし、泣き寝入りするしかなかったもんね。

 

「あの、やっぱり戦うのはいけないと思います。百人以上もいるなら、悪い人もいるでしょうけど、いい人だっていると思うんです。島はあげちゃえばいいじゃないですか。また別の島を開拓すれば、誰も傷つかなくて済む話ですよね?」

 

 久保も一応は自分の頭で考えたみたいだ。前は戦いは悪いことだからいけないとか、学校で教えられたことをそのまま言っているだけだった。だけど甘い、甘すぎるよ。

 

「盗人に追い銭みたいな真似はどうかと思うがね」

 

 秋山さんは古風だね。盗人に追い銭なんて、今どき時代劇でも言わないよ。それでも何となく意味は理解できるんだから、昔の人は凄いと思う。

 

「ミリエル神父です。盗んだ銀の燭台をもらったからジャンバルジャンは改心できたんじゃないですか」

 

 ああ、なんかそんなミュージカルがあったね。

 

「あんた馬鹿? 物語と現実の区別もつかないで。もういいわ、だったら今日から久保のプリンは全部あたしの物よ」

 

「なんでそうなるのよ?」

 

「あんたの言ってることはそういうことよ。争いが嫌いなんでしょ? なんだったらプリンを賭けてあたしと戦う?」

 

「いいわ、プリンくらいあげるわ」

 

「そう。だったらプリン以外のおやつも全部もらうからねっ」

 

「だからどうしてそうなるのよ?」

 

「戦う覚悟がないんでしょ? 言われた通り全部差し出せ!」

 

 やっぱり竹井と久保の対決になったか。

 

「みんなも竹井さんに注意してくださいよ。こんな無茶苦茶許されないじゃないですか」

 

 久保が周囲を見渡すが、皆考え込んでしまっている。

 

「誰が許さないんだ? え? え?」

 

「殴りたければ殴りなさいよ。私は暴力には屈しないんだから」

 

「なら死ぬの? あたしは超優しいからそこまでしないけど、この世界の連中は平気で殺すよ。あんたはあたしの優しさに甘えて生きていくつもり?」

 

 久保が黙ってしまう。竹井の言葉は無茶苦茶だけど、何故か説得力があった。お前が言うなとは思ったけれど。

 

 司会の梅木さんは二人を止めなかったな。無理に結論を押し付けることもしなかった。ここは学校じゃない。誰も僕達を守ってくれない。判断を誤れば即大変なことになる。

 

 僕が思うに、一番大事なのは彼我の戦力差だ。勝ち目がなければ逃げるしかないし、絶対勝てるなら追い払えばいい。問題はその間の、どっちが勝つかわからない場合だけど、勝負は時の運だし、窮鼠は猫を噛む。

 結局、戦ってみるまでは、どっちが勝つかなんてわからないんだよなあ。チートがあるから、多分、勝てるとは思うんだけど。

 

「私は竹井さんの意見に賛成なんだけど、あの島が元々彼らの領土だということはないのかしら?」

 

 花村が冷静に意見を述べる。

 

「そ、そうよ! 元々私達に領有の正統性がないんじゃない?」

 

 久保はどっちの味方なんだよ?

 

「それなら問題ありませんよ。人種が全然違いますから。あの島に砦を築いていたエルトール人は、もっとずっと北の方に本国があります。羽山さんの描いてくださった紋章は、新興のシンガ王国のものですね。建国からまだ五十年も経っていない南方系の騎馬民族由来の国家です」

 

 セーラちゃんが物知り過ぎる件。

 

「あなた、魔族のお姫様なんでしょ? なんで人間の国のことまで詳しいの?」

 

「こちらの大陸のことだから、この程度しか知らないんですよ」

 

 魔族の国のことだと無茶苦茶詳しいもんね。有名どころの貴族の家族構成とか、全部覚えないといけなかったらしい。貴族は貴族で苦労してるんだねえ。

 

「とりあえずそういうことなら、まずは話し合いで様子をみましょうか。僕らの国だから出て行って欲しいと言って、壊したものは弁償してもらいましょう。それで暴力をふるって来るなら、本国へ誰一人生かして返さないってことで」

 

 竹井も久保もそれで納得した。

 

「交渉は秋山さんにお願いします。大人じゃないと舐められそうなので」

 

「別にいいけど、最初に殺される役回りじゃないか」

 

「そこは赤松の結界を信じましょう」

 

「知らない魔法で破られたらごめんね」

 

 北の島で作るジャガイモは、全てアクアビットというお酒にしていいってことで納得してもらった。

 一体何十トン造るつもりなんだろうね?

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小田原評定。 意思決定は出来たが。もしかするとシンガ王国戦艦はもう既に立ち去った後だったり? [一言] 流石ミー君。結局のところ圧倒的暴力が解決する! 竹井の論はその通りだけどそれ言ってい…
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