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ブービートラップ

「非日常が日常に変わるには、ジャガイモが育つ期間で十分なのかもしれない」

 

 秋山さんがまた何か小難しいことを言っている。

 多分だけど、北の島に皆が飽きてしまい、誰も遊びに行かなくなったことを嘆いているのだと思う。

 そう言う秋山さんだって、十日に一回とかそんなペースで畑を見に行くくらいだ。後は収穫まで放置で問題ないらしい。

 あれ? 広大な土地とコロがいれば、無限にジャガイモ収穫できない? 連作はできないそうだけど、何年か放置しとけばいいらしいし、牧草地にしたり別の作物を育ててもいい。個人的には一面のヒマワリ畑とか見てみたい。

 

 異世界に来たばかりの時は、食料事情悪すぎと思ったものだったけれど、土地さえあれば食べきれないくらいの作物が収穫できる。

 豊作、不作はあるだろうけれど、計画的に農業すれば食料が足りなくなるなんておかしいんだよ。

 

 やっぱ、あれかな。食料に余裕があれば、あっただけ人口を増やしちゃうから。産めよ増やせよが人間の本性だから。そりゃあ慢性的に飢える理屈だよ。

 かといって人口抑制なんてしようものなら、他国から飢えた人間が押し寄せて来るだけだ。飢えて死ぬか戦って死ぬか、それが問題だ。

 一つ言えることは、この世界では戦いは悪ではないってことだ。

 

「そろそろ収穫? あんなに畑広げちゃってどうすんのよ?」

 

 赤松は容赦ない。北の島へ飛ぶ時は、僕と赤松と秋山さんの三人きりなことが多いので、ぶっちゃけトークになりがちだ。ちょっと怖い。

 

「必要なければ放置でもいいかなってね。野生化しても面白いし」

 

 ゲーム感覚だね。北の島を開発した本来の目的からすると、それでもいいのか。

 

 

「あれ? 船着き場に船がいる。一旦降ります」

 

 島で一番高い岩山に着陸する。

 

「鈴木さん達かな?」

 

「まさか。いくらなんでもそう都合よくいかんよ」

 

 どこかで鈴木達と接触してから、この島へ誘導する計画だったからね。

 秋山さんはこの島にいる時は、護符も結界も使っていないから、人探しの魔法に見つかった可能性はあるけど。

 

「泉の広場から煙が出てるわ」

 

「あーっ、なんか家の屋根が剥がされてる。せっかく作ったのに」

 

 戦闘準備、といっても心の準備だけだけれど、覚悟を決めて広場に乗り込む。赤松の結界があれば、大抵の攻撃は防げる筈だし。何かあったら躊躇なく火炎放射だ。

 秋山さんは……なんかついて来るってきかなかった。足手まといになるかもだけど、まあいいか。

 

「うわあ、スプラッターね」

 

「見るんじゃない! 子供が見るもんじゃない」

 

「でも、これの後片付けするの僕と赤松ですよね。秋山さんが全部綺麗にしてくれます?」

 

 焼け焦げた死体がゴロゴロ転がってるってだけだ。何人かは血まみれだね、何があった?

 

「格好からすると、地元の海賊だと思いますけど。あ、多分これが原因だな。あーあ、ガスボンベ壊しちゃって」

 

 裂けた銅片がボンベのなれの果てだ。凄く丈夫に作ってもらったんだけど、どうやら斧か何かで叩き壊したみたいだ。焚火のすぐ近くでそんなことをすれば、爆発しかないよ。

 

「あー、家の内装とか無茶苦茶にされてる! 略奪ってやつ?」

 

「天井を剥がしてキャンプファイヤーしたんだな。ボンベまでなんで盗むんだよ」

 

「おおかた、酒でも入ってると勘違いしたんだろうねえ。あれって揺するとチャプチャプするから」

 

 なるほど、そういうことか。

 

 おそらく、水を補給しようと立ち寄ったローカル海賊達が村を見つけて略奪を開始。金目のものを持ち出した挙句、屋根の木材を引っぺがしてキャンプファイアーを始めたんだ。

 

 銅製のガスボンベを高級酒の樽だと思い込んだ馬鹿が、焚火の近くで景気よく斧でかち割る。気化したメタンが燃え広がり、爆発。

 

 自業自得だね。馬鹿過ぎる。

 

「生存者はいないのか?」

 

「船の方を見に行ってみましょうか?」

 

 

 一応警戒して近づいたのに、船には誰もいなかった。

 

「普通、見張りくらい残すもんだろうが。海賊としてなっちゃいない」

 

 秋山さんが何故か怒っているけど、その程度のこともちゃんとできないから地方海賊なんてやってるんだよ。

 それに酷いボロ船だ。臭すぎて赤松なんて近づこうともしない。結界があるのにね。

 

「海賊船にはお宝って相場が決まってるもんなんだが」

 

 秋山さんが必死に探し回って、見つかった物は腐った丸イモとエールの樽だけ。

 

「ペッペッ! オエーッ!! 酒って腐るんだねえ」

 

「その酒に対する執念。ある意味尊敬しますよ」

 

 

 どうやら海賊は一人残らず焼け死んだようだ。宴会の開始と同時に死ねたんだから、ある意味幸せなのかもね。

 

 問題は後片付けだ。弔って埋葬すべきなんだろうけどね。

 死体は赤松が結界で船に運んで、船ごと沖に流した。海流に乗って北へ北へと進み、そのうち立派な幽霊船になるかもしれない。その前にクラーケンにでも呑み込まれるだろうけど。

 

 壊された建物の修理はなんか気が進まない。新しく建てた方が絶対早い気がする。

 穴の開いた屋根だけ撤去して、作り直せばいいと思ったんだけど、よく見ると石壁にハンマーでも叩きつけたような痕跡があり、周囲が微妙に崩れかけている。

 

 あの海賊達、どうして壊さなくていいものまで壊そうとしたんだろうねえ。

 面白半分? そんなだから死ぬんだよ。

 

 余計なことしやがって。どうせまた別の海賊に荒らされるかもしれないから、もうこのままでいいかな?

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 無人島に立派な無人村があったから何処かに隠れてるはずの住民を誘きだしたかったのかな?
[良い点] タイトルのおならと、今話のタイトルのブービーの響きに反応して、クスッとしました(ほっこり) [一言] 内容はサツバツでしたが(笑) わざわざ、このエピソードをピックアップするということは、…
[良い点] 久々に行ったら仕掛けたつもりの無いブービートラップが炸裂していたという。。。 後片付けは秋山さんが頑張った。大人の面目躍如? [一言] 廃墟で事故ったDQNみたいな。 せっかく綺麗な町なの…
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